在庫半減、売上高4倍を実現した中小の医薬品卸会社が取り組んだ四つのDXとは?

受発注は全て電話やファクス、販売や在庫の管理は手書き。中小企業がこんなアナログ経営から脱却するにはどうすればいいのだろうか。青森県八戸市の医薬品卸会社、八戸東和薬品は、押し寄せるデジタル化の波に危機感を抱き、四つのDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んだ。その結果、在庫は半減し売上高は4倍に成長。地方の中小企業の驚くべきDXの取り組みを紹介する。(取材・文・撮影/嶺 竜一)

第1のDX:販売管理システムの導入──“ネット発注対応”が生存戦略だった

「当時、正直言って『このままではつぶれるな』と思いました」

 こう話すのは、八戸東和薬品社長の高橋巧氏だ。2006年、実家への帰省中に当時社長の父が心臓の病に倒れ入院したため、勤めていた花屋を辞めて家業を手伝うために入社した。

 当時の八戸東和薬品は売上高2億円、従業員7人の小さな薬の卸売会社だった。「後を継ぐ気はさらさらなかった。家庭は裕福ではなく、当時は父のことをあまり好きではなかったし、医薬品卸がどんな事業かも分かっていませんでした。だから配達を手伝うぐらいのつもりで会社に行ったら、正社員にされていたんです。やられたと思った」と高橋氏は振り返る。

 創業は1984年。医薬品の卸売会社でトップセールスマンだった父が、全国に営業網を築こうとしていた東和薬品の販売代理店として独立創業したことに端を発する。事業内容は、青森県南部と岩手県北部を主な営業エリアとして、医療機関の院内薬局、調剤薬局に東和薬品が開発製造したジェネリック医薬品(新薬の特許が切れた後に、同じ有効成分を持つ薬を製造・販売する後発医薬品)を販売するというものだ。

 しかし創業から20年以上もの長い間、事業は鳴かず飛ばず。今でこそ東和薬品はジェネリック医薬品大手として知られるが、当時はジェネリックという言葉もない時代。認知度は低かった。「医師も薬局も扱いたがらなかった。これまで使ってきた先発薬があるのに、信頼度が十分に行き渡っていない後発薬にわざわざ切り替える理由がなかったんです」。

 父はドブ板営業をするも、地元ではうまくいかず、遠隔地のむつ市や三沢市などを回り、ほそぼそと販路を開拓してきた。そこに高橋氏が入社したのだった。

「決算書を見て、『来年も会社続けられるのかな』と思いました。利益は出ていないし、借金はなくても未来の見通しが立たない。営業職は3人いましたが、父が売り上げの6〜7割を1人で稼いでいたので、ワンマン経営の構造でした」

 暗たんたる気持ちを抱えながらも、父の顧客を引き継ぎ営業を始めた高橋氏。すると顧客と父の良好な関係性も見えてきて、次第に気持ちが入ってきたという。

 そして入社から4年後の10年、高橋氏はデジタル化に乗り出すことになる。

 国がジェネリック医薬品の普及促進を本格的に始めたのは2000年代以降。医療費増大の問題を少しでも解消するため、後発医薬品の承認期間の短縮などを進め、04年に政府方針として「ジェネリック医薬品の使用促進」を明確に打ち出した。07年ごろからは薬局のポスター、テレビCM、医療機関のパンフレットなどで「ジェネリック医薬品を希望しますか?」という文言が広がり、一般にも浸透し始めた。八戸東和薬品にとっては初めて訪れた追い風だった。それは同時に、卸業者としての体制整備を迫られることを意味していた。

 高橋氏が会社に入った当初は、注文は全て電話かファクス。販売・在庫の管理は紙に手書き。薬の回収が必要になると、紙帳簿をひっくり返して追跡するという、完全なアナログ運用だった。

「このままでは取引先が増やせないと思ったのが最初の危機感でした。全国展開をしている調剤薬局からは、ネットでの発注管理ができない業者は『口座開設できない』とまで言われたんです」

 販売管理システムの導入を検討したが、市販のものは高額でとても手が出ない。そこで東和薬品の代理店に低額のシステムを使っている会社がないか聞いて回った。

「栃木の代理店さんがオリジナルで販売管理システムを開発していたんですよ。それがネット発注にも対応していると聞いて、すぐに社長に会いに行って、ぜひ使わせてくださいとお願いしました」

 東和薬品栃木販売が開発していたのは、当時としては珍しいクラウド型の販売管理システムだった。価格は中小企業でも手が届く範囲で、しかも導入支援まで受けられた。

「当時はまだ“IT化”という感覚で、DX(デジタルトランスフォーメーション)なんて言葉は知らなかったけど、今思えばこれが第1のDXでした。システムが変わるだけで、社員の動きがこんなに変わるんだなって思いました」

在庫半減、売上高4倍を実現した中小の医薬品卸会社が取り組んだ四つのDXとは?販売管理のデジタル化によりトレーサビリティーが格段に向上した

 10年に導入後、業務の効率化は目に見えて進んだ。自動で納品伝票が印刷される、ロット管理がシステム上で可視化される、得意先ごとの販売履歴が一覧で見られる──。手書きと電話に頼っていた日々から一転、情報の整流化が始まった。