科学で老化を遅らせることは
できるようになったが……
しかし、内臓や肉体が老化しないとなれば、長生きしたい人は増加するだろうか。
私の知り合いに、120歳まで生きたいと言う人がいる。ハーバード大学の遺伝学の教授デビッド・シンクレア教授が書いた『ライフスパン』という本が、数年前にベストセラーになったが、その本に感銘を受けたそうだ。
この本によれば、老化は自然現象ではなく、病気のひとつであり、意識的に生活環境を変えることで体内の遺伝子を変化させることができ、老化を遅らせることが可能だという。
「長生き家系」という言葉があるが、長寿は、両親や先祖から引き継いだ遺伝子の影響を受けるゲノムの問題ではなく、生活環境を変えることでエピゲノムを修復し、老化を防止することで実現するそうだ。

老化を遅らせることができれば、がんや脳卒中、心筋梗塞(こうそく)など老化に起因する病気を防ぐこともできるので、健康寿命が延びることになる。ちなみに、シンクレア教授によれば、身体を老化させない秘訣は、食べ過ぎないこと、運動をすることなのだそう。
私の知人はこの本を読み、毎日、アップルウォッチで健康観察をし、遺伝子を老化させない習慣を実践し、120歳まで健康で生きることを目指している。
一方、100歳以上も生きたくないという人でも、100歳になって気力体力がみなぎっており、既往症もなく生活できるのであれば、生きていたいだろうか。
老化にも病気にも無縁で100歳まで生きることができたとしても、私自身は、100歳まで長生きしたくはない。
健康長寿は人生の目的ではなく、手段であるべきだと考えているので、半世紀を生きてきた現在、さすがにあと40年以上も、やりたいことを見つけ、それに向かって邁進(まいしん)したいとは思わないし、のんびり生きるには長すぎる。