茶褐色の銅製で、等身大のスーツ姿。右手を軽く上げたポーズを取っており、顔立ちは少し老成して見えるが、その姿は非常にリアルで、見た瞬間に安倍だとわかった。
像の背後には富士山の看板と「台日友好」の文字があり、左隣には安倍の揮毫(きごう)による「台湾加油」(台湾がんばれ)の石碑が設置。
そして像の台座には「台湾永遠的朋友」と刻まれ、説明板にも「安倍是日本偉大政治家、生前全力支持台灣、台灣人感念而製作銅像」などと記されていた。
つまり、安倍が生前台湾に友好的だったため、それに感謝を示すため銅像を建てたというのである。発案したのは、保安堂主任委員の張吉雄氏ら地元の有志だった。
日本では一周忌に際して、銃撃が起きた大和西大寺駅前に献花台を設けるかどうかで揉めた。それにたいして台湾では、すぐに銅像が建てられた。安倍支持者がここを聖地化する理由もわからなくもない。
そんな彼我の差に考えをめぐらせていると、耳慣れた音楽に気づいた。
「遼陽城頭夜は闌けて有明月の影すごく……」
日露戦争時の軍歌「橘中佐」だった。わたしはかつて軍歌で本を書いたことがあったので、つぎつぎに流れてくる曲がすべてわかった。「歩兵の本領」「戦友」「水師営の会見」「広瀬中佐」――。
なんで日本の神輿まで……??
「親日」の熱量がスゴすぎる
それに誘われるように廟に近づくと、「ニーハオ」と声をかけられた。「日本人ですか?コンニチハ」。
声の主は、保安堂の広報部長を務める林森豪氏だった。日本語が堪能なかれの案内で、廟内を見学することになった。
内部の空間は豪華絢爛だった。正面の祭壇が金色に輝き、竜が躍っている。いかにも中国風だが、つぶさに見ていくとやはり多数の「異物」が紛れ込んでいた。
廟内には、日の丸や旭日旗、菊の御紋があちこちに散りばめられ、高田艇長の神像や写真が飾られている。「38にっぽんぐんかん」と称する「神艦」が奉納され、精巧に作られた「蓬38号」の模型も展示されている。