さらには、日本風の神輿や『安倍晋三回顧録』の姿も目に入った。そして、記念撮影コーナーの年表記には、西暦でも中華民国暦でもなく、日本の令和が使われていた。
あまりに親日的すぎないかと思ったが、極め付きはおみやげコーナーの「安倍コイン」だった。なんと、安倍像をあしらった金色の記念コインまで売られていたのだ。
表面には菊の御紋とともに「元首相 安倍晋三」「台日友好」と記され、裏面には保安堂の全景が描かれている。「蓬38号神艦」の記念コインとセットで、500台湾ドル(約2000円)。お守りや御朱印などとともに、思わず5セットも買ってしまった。
もし日本で安倍記念館がつくられていたら、果たしてこのようなものになっていただろうか。保安堂が民間主体で運営されていることを考えれば、「下からの参加」(編集部注/筆者は、国威発揚に民衆や企業などがさまざまな動機で自発的に関わることを「下からの参加」と表現している)の一例といえるだろう。

それにしてもじつに暑苦しい空間だった。見て回るうちにも汗が絶え間なく吹き出し、床に滴り落ちた。この保安堂に空調がなかったことも一因だが、やはり最大の原因は親日情報の大熱波だった。ただでさえ猛烈な台湾南部の熱気が、いっそう厳しく感じられた。
これほどの親日熱は、地元で嫌厭されたりしないのだろうか。林森豪氏は「そうではない」と首を横に振った。保安堂では、日本と関係のない神々も一緒に祀られており、年間で3000から5000人ほどの来客を受け入れている。そのため、けっして珍スポットとして敬遠されているわけではないらしい。