7月の参院選で創設から5年目の参政党が大きく票を伸ばし、各社の世論調査でも自民党に次ぐ第2位の座を国民民主党と争っている。それに対して野党第1党の立憲民主党は、自民党と同じく支持者が高齢者に偏り、党勢の低迷は否めない。

 だが世界に目を転じてみると、これはさして驚くようなことではない。日本に先んじて、欧米ではどこも同じ現象が起きている。

参政党の躍進が目立った日本の参議院選だけでなく、世界各国で「アウトサイダー」政党の存在感が高まっている理由とは?Photo:SashkaB / PIXTA(ピクスタ)

 トランプ政権は強硬な関税政策などで無党派層が離れ、今年7月の支持率は(1月から10ポイント低下した)37%まで下がったが、だからといって民主党の人気が上がったわけではない。そればかりか、民主党の支持率は1月から20ポイントも低下した29%と不人気のトランプ政権を下回っている。

 こうした傾向がより顕著なのはヨーロッパで、どこも主要政党が退潮し、新興の政党が党勢を拡大している。

 イギリスでは24年7月に労働党が14年ぶりの政権交代を実現したが、それから1年たって、与党・労働党の支持率は22%(スターマー政権の支持率は31%)で、反移民を掲げる右派ポピュリズム政党のリフォームUK(支持率29%)に水をあけられている。その一方で、長く政権を担ってきた保守党は支持率16%と過去最低水準に落ち込み、支持率4位に転落した。

 フランスでは「極右」国民連合(RN)の実質的な党首であるマリーヌ・ルペンが、公設秘書給与の流用によって2027年の次期大統領選への出馬を禁じられたにもかかわらず、共和党の一部と提携した極右連合と合わせて有権者の3分の1(33.2%)の支持を獲得して他の政党を大きく上回っている。それに対して二大政党の時代にフランス政治を支配してきた共和党の支持率は6.6%、マクロン政権の前(2017年)までは与党だった社会党にいたっては左派連合「新人民戦線(NFP)」に吸収されてしまった。

 さらにドイツでは、第1党で政権与党でもあるCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)の支持率(29%)と、ドイツ連邦情報局から「極右団体」と正式に指定されたAfD(ドイツのための選択肢)の支持率21%が拮抗している。それに対して前政権を担ったSPD(社会民主党)の支持率は16%に沈んだ。――そのSPDは、支持率では劣勢を挽回できないと考えたのか、AfDは憲法違反だとして政治活動の禁止を求めている。

 こうした状況を「世界各国の政治における「アウトサイダー」の存在感の高まり」として論じたのが水島治郎編『アウトサイダー・ポリティクス ポピュリズム時代の民主主義』(岩波書店)だ。本書によればこれは局地的な現象ではなく、大統領制が一般的なラテンアメリカでは、もはやほぼすべての大統領が「アウトサイダー」出身になったという。いったい何が起きているのだろうか?

「無組織層」こそが、主流派政党の選挙地盤を液状化させ、アウトサイダー政党(ポピュリスト)が台頭する土壌を用意した

 ヨーロッパ政治を専門とする水島治郎氏は、政治におけるアウトサイダーを「従来の政治秩序の周縁部に出自を持ち、「外部」の立場から既成政党や既成の政治家を批判し、既存の政治の「変革」を訴える政治主体」と定義している。

 本書(2025年5月刊)の5年前(2020年2月)に刊行された水島治郎編『ポピュリズムという挑戦 岐路に立つ現代デモクラシー』(岩波書店)では、オランダの政治学者カス・ミュデの定義を引いて、ポピュリズムは「中心の薄いイデオロギー(thin-centered ideology)」で、社会を究極的には「純粋な人民(people)」と「堕落したエリート」という2つの同質的で敵対する集団に分割し、「政治とは人民の一般意思であるべきだ」とする政治運動と定義されていた。

 ここからわかるように、アウトサイダー政党はポピュリズムと重なっている。アウトサイダーとは「反主流」のことで、人民の名の下に主流(インサイダー)を批判することに存在意義があるのだから、これは定義の重複ともいえるだろう。

 ここで重要なのは、欧州では「極右」のアウトサイダー政党が伸長しているとしても、それがつねに移民排斥を唱える右派であるとはかぎらないことだ。ポピュリズムは「弱いイデオロギー」だから、どんな政治的立場とも組み合わせることができる。左派ポピュリズムとしてはイタリアの五つ星運動が知られるが、近年のヨーロッパでは「左派で保守派」のアウトサイダー政党が登場している(“Conservative Left”と呼ばれる)。

 水島氏は『ポピュリズムという挑戦』所収の「中間団体の衰退とメディアの変容 「中抜き」時代のポピュリズム」のなかで、世界各国でポピュリズムが拡大する背景には中間団体の衰退があると指摘している。

 たとえば日本社会は、かつては「人々が団体に所属し、その団体を通じて政治にかかわりを持つ」社会だった。1989年における団体の加入率は、自治会・町内会が67.8%、婦人会・青年団などは13.8%、農業団体が11.1%、商工団体が5.2%、労働組合は9.4%で、「団体に属していない人」は16.9%に過ぎなかった。誰もがどこかの団体に所属しているのが当然だったからこそ、どこにも所属せずに働く「フリーター」が自由の象徴になったのだ。

 だがこの緊密な共同体のネットワークは、平成の30年間で大きく様変わりした。2018年の団体加入率は、自治会・町内会が24.8%、婦人会・青年団が3.5%、農業団体は2.8%、商工団体は1.3%、労働組合は6.0%に減少した。

 こうした中間団体は、たんに加入者が減っただけでなく、メンバーの高齢化と活動の停滞にも悩まされている。これは自民党よりも、組織票に頼ってきた公明党や共産党に大きな打撃を与えただろう。

 その一方で2010年代には「新しい公共」が注目を浴び、NPO法の成立もあって、前近代的なしがらみのある(差別的な)団体が、市民の自発的な活動に基づく(民主的な)団体に置き換えられるという展望が盛んに語られた。

 だが水島氏は、「実は加入率を見る限りにおいて、その期待は裏切られたと言ってよい」と書く。「2018年時点でNPOや地域づくり団体など、「新しい公共」の担い手と目される団体に所属する人は1.5%に過ぎない。加入率はわずかに増えているものの、その伸びは遅々としている。『古い団体』の落ち込みを補うものとは、到底言えない」のだ。

 日本でも世界でも、新自由主義やグローバリズムを批判して「新しい公共をつくる」議論が盛んだが、たとえば日本では、過去30年間で唯一大幅な伸びを示しているのは「(どこにも)加入していない」ひとたちで、16.9%から44.3%へとおよそ2.5倍に増えている。

 この無党派層ならぬ「無組織層」こそが、主流派政党の選挙地盤を液状化させ、アウトサイダー政党(ポピュリスト)が台頭する土壌を用意したのだ。