生き残りを懸けた
主要企業の合従連衡

 トランプ関税の影響もあり、今後、世界の自動車業界で合従連衡が加速することになるだろう。米国とEUが相互関税・自動車および関連部品関税を15%で合意した直後、伊エクソールは商用車と防衛車両を手掛けるイベコの分割を発表した。

 イベコは商用車事業をインドのタタに、防衛車両事業をイタリアの防衛大手レオナルドに売却する。エクソールは、フィアット創業家アニェリ家の資産管理会社だ。2月のフェラーリ株4700億円相当の売却に続き、商用車事業も切り離した。ステランティスの業績立て直しに資金を再配分する緊急性が高まっているとみられる。

 イベコの分社化は、先進国の自動車業界にとって重要な2つの意味を持つ。まず、乗用車とトラックのような商用車の事業を切り離す企業は増える可能性が高いことだ。用途の異なる車を一つの事業体に収めるよりも、特定分野に集中した方が競争に対応しやすいはずだ。

 もう一つは、収益を高めることが難しい企業は、他社への身売りが避けられないことだ。リーマンショック後に、スウェーデンのボルボに中国のジーリーが出資した。今後は当時以上の規模・スピードで、新興国企業が主要先進国の乗用車、商用車メーカーの経営権を取得するケースが増える可能性は高い。

 フランスでは、日産の株価下落で業績が悪化したルノーの経営陣が交代した。一時取り沙汰された、ルノーとステランティスの経営統合が再度浮上するとの観測もある。それが成立すると、欧州自動車業界は事実上、ドイツ勢と伊仏連合の2陣営に再編されることになる。

 自動車の電動化・SDV開発競争が激化している中国では、7月下旬に長安汽車が中央政府の直轄企業に指定された。中国政府は、国有自動車メーカーの電動車・ソフトウエア開発をより手厚く支援するという。それによって、アジア新興国や欧州、アフリカ、南米など米国以外でのシェア拡大の意図があるのだろう。