まずは体の不調や不快感、薬の副作用、家族間の関係などアジテーションを招く要因を追求。それらの原因を取り除いてもなお本人の焦燥感や不安、興奮が収まらない場合には投薬による治療も可能だ。

「2024年9月、抗精神病薬の『ブレクスピプラゾール(製品名:レキサルティ)』にアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮などの症状に対する効能効果が国内で初めて承認され、保険適用になりました。これを服用するとアジテーションの症状が抑えられます。より多くの人が服用しやすくなるメリットもありますが、症状の原因を探る前に、安易に薬が処方されるケースも懸念されます。かかりつけの医師の方にも、認知症に伴うアジテーションの薬物治療は最終手段と考えていただきたいです」

 発症すれば、長い年月をともにすることになる認知症。本人が言葉にできない違和感や不安を解消し、日常生活を過ごしやすくするのが大前提なのだ。

不足している家族の支援
抱え込まずに相談を

 保険適用の薬が登場して解決策は増えたものの、繁信氏は「家族の負担はまだまだ大きい」と指摘する。

「日本の高齢者に向けた公的な介護保険制度や介護サービスは、ほかの国と比較しても非常に充実しています。介護をするご家族も、介護関連の情報を収集し、サービスを上手に活用されている人が以前に比べて増えている印象です。しかし、しっかり者だった両親の老化を感じたり、認知症が進行していら立つ姿を目の当たりにしたときの心理的な不安を軽くする公的な支援は不足しています」

 家族会への参加や看護外来、担当のケアマネジャーが家族支援の一端を担っているが、国の制度としては提供されていないのが実情。高齢者がさらに増える未来には、患者本人だけでなく、その周囲をケアする仕組みが不可欠と言える。

「親の介護と向き合うには、自分自身が心の余裕を持ってケアに臨むのが理想です。近年では、社員や職員の介護離職を防ぐために専用の相談窓口を設けている企業も増えています。ひとりで抱え込まず、勤務先の相談窓口や地域包括支援センターの相談会などを活用しながら、精神的な負担を少しでも軽減しましょう」

 アジテーションは認知症患者本人だけでなく、介護の担い手にも影響が及ぶ。今後も双方が納得し、安心して介護の道を歩む方法を探る必要がありそうだ。

〈プロフィール〉
繁信和恵氏
公益財団法人浅香山病院精神科部長・認知症疾患医療センター長。1997年愛媛大学医学部医学科卒業後、同大大学院入学。2002年同大附属病院神経科精神科を経て、同年6月より浅香山病院精神科へ。2009年10月から現職。認知症の鑑別診断、BPSDの治療、若年性認知症支援に尽力している。