2012年に習近平が就任後、「中央八項規定」を打ち出した。これは勤勉倹約の励行や汚職「ゼロ」を目指す規定だった。今回の「禁酒令」はその拡大版といえるもので、世間では「もっとも厳しい禁酒令だ」と言われている。

 背景には、腐敗の温床を根から断ち切るという政府の思惑がある。中国では長年、接待や会食の席で賄賂や利益供与が行われていたからだ。また、税金で政府の幹部らが高級酒などの贅沢を享受することで、民衆の不満を解消するため、節約・規律の強化が求められている。

「酒卓文化」への致命的打撃

 しかし「禁酒令」は、外食産業にとってまさに「雪上加霜」(雪上に霜を加える、「弱り目に祟り目」のような意味)である。

 もともと中国の伝統文化の中に、「酒卓文化」がある。「無酒不歓」(酒なしでは楽しめない)や「酒品如人品」(酒の飲み方は人柄を表す)といった言葉があるほど、お酒は「潤滑油」のように人間関係を構築し、信頼関係を深める重要な役割を果たしている。また、「酒卓ビジネス」というくらい、酒卓で一緒に酒を飲んで商談が成立するケースも少なくない。

 恐らく、中国と仕事で関係のある日本のビジネスマンの中には、白酒(アルコール度数50度以上)で「敬酒」や「乾杯」、「一気飲み」でガンガン飲まされた経験を持つ人も少なくないだろう。筆者自身も過去仕事関係の席で、お酒を勧められたり、いちいち席を立ち上がり、時計回りの順番に「敬酒」を行ったりして、疲弊した覚えがたくさんあった。ゆえに、日本にはこのような習慣がないので、落ち着いて会食を楽しめるわけである。

 今回の「禁酒令」の実施により、中国の「国酒」と呼ばれる高級白酒の「茅台(マオタイ)酒」や高粱酒の価格が暴落した。販売量も急減している。中国のメディアが茅台(マオタイ)酒の卸売業者に取材したところ、「以前は月に200箱売れていたのに、今では20箱も売れない」と業者が語ったという。

 筆者が北京で泊まったホテルのレストランのマネージャーは「以前はビジネス接待の場で、酒類が総消費額の4割を占めていたが、今ではその収入がほぼゼロになってしまいました」と嘆いた。