3月5日、中国で全国人民代表大会(全人代)が始まる。習近平国家主席は不動産バブル崩壊後の経済を立て直しているが、トランプ米大統領による対中関税強化など、向かい風も吹いている。貧富の差の解消、格差是正が大きな課題となる中、注目されるのが「愛心レストラン」や「社区食堂」の存在だ。弱者救済のセーフティーネットになるのか、実態を調べてみた。(北京理工大学教師 吉田陽介)

中国で生活に困っている人向け
無料提供の「裏メニュー」が流行?

『北京で見つけた「暗号メニュー」そこから読み解く中国の今』(2月1日、毎日新聞)と題する記事が面白かった。北京にある飲食店「小湘旺・宋庄店」で、生活に困っている人がメニュー表にない唐辛子肉炒め丼(39元、約800円)を注文すると、無料で食べられる仕組みを取材したものだ。道路の清掃員や宅配の配達員など、過酷な条件で働く人たちに食事を安く提供する試みも紹介している。

 こうしたレストランを、中国では「愛心レストラン」(邦訳「思いやりレストラン」)という。実は、同様の記事が中国式SNS「微博」(ウェイボー)で24年12月にアップされていた。

 ウェイボー上では、「無私の善意に感動した。こうした優しさが社会に伝わってほしい」「商売がずっとうまくいきますように。どうぞお体にお気をつけて」といった温かい書き込みが多かった。一方で、「じゃ、得をしに行くか」と、うそか本当か分からないような書き込みや、「どうでもいいや」と冷めたコメントもあった。

 愛心レストランの存在について、一般企業に勤務する中国人の友人に尋ねたところ、「聞いたことがない」という。大企業に勤めている彼からすれば、さほど関心がないのだろう。

 しかし、愛心レストランは北京だけでも複数あるようだ。例えば、「豫石記羊湯・東四店」に行ってみると、〈宅配配達員、タクシー運転手、清掃員、困難な人たちに、羊の内臓のスープ、ラーメンを無料で提供する〉と書いた看板が掲げられていた。

「800円の肉炒め丼」も無料提供、中国で「思いやりレストラン」が広がる事情とは?愛心レストランの看板 Photo by Yosuke Yoshida
「800円の肉炒め丼」も無料提供、中国で「思いやりレストラン」が広がる事情とは?愛心レストラン店内の様子 Photo by Y.Y.

 また、1月14日付「極目新聞」は、武漢市にある四川料理店の取り組みを紹介している。ここの店主は、大きな荷物を運ぶ仕事をしながらも、1日何も食べていない50代の夫婦を見かけて、「こうした人たちの役に立ちたい」と食事の無料提供を始めたという。店主自身も貧しい家庭で育ち、社会に恩返しがしたかったそうだ。

 他にも、雪の降る日に温かい食事を無料提供する、夏の暑い日には水を提供する、出稼ぎ労働者には特定の料理を安く提供するといったケースもある。

 こうした例は、飲食店経営者の善意であり、民間レベルの「弱者救済」措置の一つと言えるだろう。それでは、公的レベルでは、弱者救済措置はないのだろうか。実態を調べるため利用してみた。