どう考えても、経済だけから、選挙の劇的な結果、トランプの圧勝/ハリスの完敗を説明することはできない。

「経済の悪化」は原因ではなく、結果の一部だと考えなくてはならない。客観的には、改善している経済を「悪い」――現政権(民主党政権)を拒否したくなるほどに厳しい――と認知させる主観的要因があるのだ。その主観的要因を探り出さなくてはならない。

極端なトランプに対して
普通の主張を続けたハリス

 ごく簡単に看取することができる事実から始めよう。外部から見ていても誰もがすぐに気づくことは、トランプは極端なことを主張しており、ハリスは普通のことを主張していた、ということである。

「極端なこと」とは、はっきり言えば、不可能なこと、という意味である。トランプは、客観的で冷静な観点から見るならば、できないこと、できるはずのないことを主張している。

 彼は、常識に基づけば、あるいはごくノーマルな政治的判断からは、とうていできそうもないこと、あるいは、それをほんとうに実行したときに生じうるネガティヴな結果が恐ろしすぎて、普通の人だったらとうてい踏み込むことができそうもないこと、そうしたことを主張した。

 たとえば、トランプはウクライナ戦争を1日で終わらせる、と豪語する。誰もが、そんなことはできっこない、と思う。あるいは、仮に戦争を短期間で終わらせたら、その結果は、(ロシアにウクライナの領土を割譲することを許すことになるので)とうてい受け入れられないものだろう、とたいていの人は考える。

 あるいは、トランプは、中国をはじめBRICSからの輸入品に100%の関税をかける、などと主張する。このことの経済的かつ政治的な帰結、アメリカの物価に与えるかもしれない破壊的な帰結等のことを思えば、普通の政治家やエコノミストには怖くて言えないことである。

 それに対して、ハリスは、可能なことだけを主張した。可能なこととは、現状を前提にした中で、おおむね誰もが受け入れられること、という趣旨である。