「逆境が人に及ぼすものほど輝かしい」を読み解く

「おや、この詩…」意外なシーンで名フレーズが爆誕!『あんぱん』放送100回目に名言の嵐【あんぱん第100回】

 蘭子は学歴がないことをコンプレックスにしていた。でも、それは実家の生計を助けるため進学しないで郵便局で働くことを選択したからだ。

「逆境が人に及ぼすものほど輝かしい」

 蘭子を励ますために八木が引用した言葉を、すぐにシェイクスピアだと気づく蘭子の教養の高さ。学歴がなくても教養は積める。

 この言葉は、シェイクスピアの『お気に召すまま』第二章一場、前公爵のセリフである。前公爵は公爵の身分を剥奪、追放されてアーデンの森で暮らしている。その隠遁生活について、彼はこうやって自分を奮い立たせているのだ。

《Sweet are the uses of adversity, Which, like the toad, ugly and venomous, 
Wears yet a precious jewel in his head》
「逆境のもたらす恩恵ほど甘美なものはない、まるでヒキガエルのように醜く、毒を吐き出すが、その頭には貴重な宝石を宿している」(『お気に召すまま』シェイクスピア著、松岡和子訳、ちくま文庫より)

 ヒキガエルの皮膚には毒があり、その頭のなかに生じる石には解毒作用や魔よけの力があると信じられていた。

 この言葉は蘭子だけでなく、嵩の人生にも通じるものがあるだろう。シェイクスピアのセリフにはさらに続きがある。

《And this our life, exempt from public haunt,
Finds tongues in trees, books in the running brooks,
Sermons in stones, and good in everything.》
「俗世間を離れたここでの暮らしは、木々に言葉を聴き、小川のせせらぎを書物として読み、小石の中に神の教えを、森羅万象に善を見出す」(同書)

 やがて、嵩は、日々の暮らしのなかから、貴重な宝石、あるいは、神の教えや善のようなものに出会うのである。

 あるとき、嵩はのぶが八木の店で働いていることを知る。

 のぶが内緒で苦労してくれていたことに激しく反省する嵩にのぶは「人を喜ばすのは漫画だけに限らんやろ」と助言。さすがに嵩ももう「口出さないでくれ」とは言えない。

 停電が起こり、懐中電灯を使う。手のひらに灯りを透かすと真っ赤に見えた。そこで嵩は詩のようなフレーズを思いつく。

「手のひらをすかしてみれば 真っ赤に流れる 僕の血潮」

「おや、この詩」と語り(林田理沙)がぽつり。

 これこそ逆境がもたらす恩恵であろう。『あんぱん』100回にして、いよいよ嵩の快進撃の始まりか?

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