他社の対策を見習えなかったのか
ハッピーセットという商品の限界

 繰り返すが、私は転売ヤーを絶対悪だとは思っていない。転売を完全になくすことはできない。転売を根絶したかったら、そもそも商品の販売をやめることだ。

 一方、企業が不正な転売を少しでも減らしたいなら、努力すればできる施策はあると思う。

 例えば、スターバックスは正月の福袋の販売に関して、事前登録した上で抽選する仕組みを導入した。エントリーは1人1回まで。もちろん、やろうと思えば複数アカウントで登録や応募は可能だ。しかし、こうした企業のひと手間が、悪質な転売の抑止力になっていることは間違いない。また、任天堂のNintendo Switch 2(ニンテンドースイッチ 2)も同様で、購入希望者はニンテンドーアカウントを作成し、抽選に応募する。

 マクドナルドだって、公式アプリを使って1アカウントで1セットのみを販売する管理方法を考えられたのではないか。実行すれば少しは抑止力になったと思う。

 他社の対策事例としては他に、購入者の身分証を確認し、商品のシリアルナンバーとひも付ける方法がある。あるいは購入時にパッケージに油性マジックで印を付けるなど、あえて少し汚すことで転売のモチベーションを下げる。人気プラモデルでは、購入者にその場で袋を開けてパーツを分離してもらう施策も実施された。いずれも転売をゼロにはできないが、減らすことにはつながる。

 決定的な対策は、値上げすることだろう。今回のような超プレミアなハッピーセットは1万円、いや10万円で販売してみたらどうだろうか。きっと転売目的の買い占めは激減するだろうし、それでも販売数量が通常のハッピーセットとさほど変わらなければ、マクドナルド側の価格設定としても「あり」かもしれない。

 と、こんなことを書くとまた読者から怒られてしまいそうだ……。そもそもマクドナルドのハッピーセットとは、ハンバーガーとサイドメニューと飲み物に、子どもが好きなオマケまで付いてワンコイン程度、親も子もハッピーになれるという商品なのだ。

 低価格ゆえ、多額の追加コストがかかる厳密な販売管理はできないだろう。しかし、やはりSDGsだCSRだと強く世の中に訴えてきた企業だからこそ、自社の目指す世界観を実現するためにも十分な対策が必要だったと思う。

 現時点では業績への悪影響は懸念されないし、過去の転売騒動でブランド離れが起きたとか、そういう話は聞かない。一方で、SNSには「もうマクドナルドには行きたくない」といった声もある。その声がデタラメだとは思えない。モノやサービスの購買行動に、企業姿勢を重視する傾向は確かにあるからだ。

 ハッピーセットの転売騒動が、今後もずっと繰り返されたら……。熱狂的な大ヒット完売御礼は、長期的なブランド毀損や消費者の不満の代償に見合うものなのか、甚だ疑問である。

 収益は低くても地道でスムーズな販売のほうが、ブランド力の維持向上に寄与するかもしれない。また、アプリなどによる抽選システムの開発を単なる追加コストではなく、ブランド保護と顧客リレーションシップに欠かせない経費として考えれば解決につながるかもしれない。

 子どもの笑顔ではなく、メルカリの出品数ばかり増えても、どうしようもないことだけは確かだ。

坂口孝則プロフィール