争点は社会的評価を低下させるか
真実性・相当性があるか

 一般的な名誉毀損訴訟のケースと同様で、本件訴訟における争点は二つあった。

 第一に、当該記事で示された事実等が原告(ニデックや永守氏)の社会的評価を低下させるものであるか否か。第二に、当該記事で示された事実、または意見ないし論評の前提となる事実が真実であるか、もしくは真実であると信ずるに足る相当の理由があるか(取材を尽くしているか)否かだ。

 ニデック側の主張は、2本の記事が摘示する事実はいずれも虚偽であり、原告らの社会的信用等を低下させ違法であると主張した。

 ニデックが事実誤認としたのは、1本目の記事(特集『京都企業の血脈』の#7『日本電産「エリート幹部大量流出」危機、日産・三菱商事・シャープ出身者に加え生え抜きも』)では、以下の部分だ。

 永守氏が部下の言うことに耳を貸さず、役員らに絶対服従を強いて、自分に従わない者や自分の設定した目標を達成できない者を次々に事実上、解任・降格・減俸し、永守氏に服従せず反抗する役員が次々と退任している。ニデックの車載事業と家電産業事業を支えてきた外部人材が枯渇し、永守氏が求めるような絶対服従できる子分でかつ車載・家電産業事業の経営ができる人材は見当たらない(判決より抜粋、意訳あり)。

 2本目の記事(特集『日本電産 永守帝国の自壊』の#3『日本電産永守会長が「役員クビ」乱発!恐怖の昇格降格ジェットコースター人事で生え抜き疲弊』)では、以下の部分だ。

 永守氏が過去10年間、外部人材か生え抜き人材かにかかわらず、永守氏に絶対服従をしない役員を次々に解任してきており、永守氏が役員の解任を乱発したことにより、ニデックに優秀な外部人材は寄り付かず、生え抜き役員は疲弊しており、永守氏は、とりわけ、「車載」と「「家電・商業・産業用」の二大事業の担当役員をことごとく解任してきた(判決より抜粋、意訳あり)。

 それに対してダイヤモンド社は「ニデックらが主張するような事実を摘示したものではない。2本の記事は、永守氏による主観的憎悪や恣意による人事を摘示したものではなく、業績悪化や目標未達成を理由として降格処分等をしたとの事実を示したにとどまる。このような人事は違法・不当なものではないから、原告らの社会的評価等を低下させるものではない(判決より抜粋、意訳あり)」と主張した。

 双方の主張は真っ向から対立したが、ダイヤモンド社の主張はおおむね認められた。

 判決では、「永守氏は創業者であり、その代表取締役の地位にあるから、役員の人事について永守氏が大きな影響力を持っていたとしても、それ自体、社会的に非難されるべきと解されるものではない。記事中で永守氏につき「絶対君主」「絶対服従」等の用語が用いられていることを考慮しても、記載された事実自体がニデックの社会的評価を低下させるものとは認め難いし、これをもって直ちに、ニデックにおける役員人事において法定の手続きが取られておらず、永守氏の独断により行われており、ひいてはニデックにおいてコーポレートガバナンスが適切に履践されていないと指摘するものとまでは解されない(判決より抜粋、意訳あり)」とされた。

 また、記事の公共性や公益を図る目的についても認定された。判決では、「東京証券取引所プライム市場に上場する株式会社であるニデックと、その創業者であり代表取締役会長であって原告会社の人事や経営に大きな影響力を持つ存在である永守氏について、ニデックの役員人事の実情、永守氏の役員に対する言動、その役員の退職または退任に対する影響、主要事業である車載事業及び家電産業事業に係る役員人事の影響等を指摘するものであって、公共の利害に関する内容を掲載したものと認められる。本件記事の執筆・編集・掲載については、いずれも専ら公益を図る目的によるものと認められる」と記された。

 結果として、ニデックらが請求した4項目のうち3項目が棄却され、ダイヤモンド社に対する損害賠償等として請求された総額6600万円(及び利息)のうち、認められたのは55万円(及び利息)。

 一方で、ダイヤモンド社の主張が認められなかったのが「ニデック元役員2名の人事」に関する部分だ。これにより、損害賠償金として55万円が認められることになった。