
嵩が女性にモテモテで
のぶの包丁を切る音に殺気が
出勤前の銀座のホステスたちが「柳井先生〜」と駆け寄ってきた。
子どもだけでなく女性たちにもモテるようになった嵩にのぶはイライラ。「たっすいがーのくせに生意気や」
実際はモテるというか、ホステスの子どもが漫画家になれるかとか子どもの将来を相談しているだけだったのだが、のぶは勘違いしたままさっさと席を立つ。あたふたする健太郎。ここがもう漫画みたい。
どうも「サザエさん」的なものを思い浮かべてしまう。マスオさんがなぜかモテているのをサザエが目撃。カツオがあたふたしているという絵が見えるようだ。
嵩が帰宅すると、のぶは大根を大きな音をさせて切っていて、怒りが伝わってきた。
「のぶちゃんでもやきもち焼くんだなって」のんきに嬉しがる嵩に、のぶは「最近の嵩さんはおかしい」と指摘する。無理やり仕事を詰め込んで漫画を描いていないと。
目の前の仕事に流されて書きたい漫画が書けなくなってしまうことをのぶは心配するが、嵩がそうしていることには根深い理由があった。
なかなか売れないことで自信をなくしているのだ。売れる売れないは気にせず、書きたいものを描けばいいと詰め寄るのぶ。そのために彼女が働くと言っていたわけで(いまは仕事を辞めているが)。
「嵩さんがほんとうに書きたいものは何?」
これはのぶの心情でもあるのではないか。彼女も教師、代議士秘書、会社員と流されてきてひとつも大成していない。
自分が何も見つけられていない分、嵩に賭けているのだと思う。その嵩が何のために生まれて、何をして生きるか迷ってしまっているのを見ると苛立つのだろう。
そして、漫画を自分が勝手に押し付けているのかもしれないとも思って悩んでしまう。そのうえ、結果的に家計も嵩の稼ぎに頼っている。この状況にのぶは耐えられず、家出(蘭子の家で、「えらい近距離の家出やねえ」と言われる)。
ひとり部屋に残された嵩は、「のぶちゃんの分も買ってきたのにな」と袋に入った2個のあんぱんを見つめる。新婚の頃、コロッケを1個しか買ってこなかったことがあったが、今日はちゃんと2個買ってきたのに、渡しそびれてしまった。
のぶも嵩もお互いを思い合っているのに、ちょっとした苛立ちから喧嘩になってしまう。こういうすれ違い、日常でもあるあるだ。
「のぶちゃんに苦労をかけないために」
「ありがとうございます」
「トゲがあるなあ」
という生々しいやりとり。
漫画が描けない苛立ち、勝負する自信がなく逃げてしまう心情、たぶん、ニコニコと他人には愛想よく振る舞い、真面目に仕事をこなしているが、内心はぐちゃぐちゃしていて、ついに「あ〜クサクサする」と本音が吹き出す。
朝のドラマにふさわしいかは別として、北村匠海の芝居と相まって見応えがあった。