自由闊達な組織から
イノベーションは生まれない!
ただし、それだけではまだ〈n=1〉にすぎない。キーエンス流のイノベーション@スケール(スケールにつながるイノベーション)を目指すには、現場で生まれた新たな知恵を、新たなルーティン(型)として組織の中に伝播する必要がある。そこでカギを握るのが、営業の前線のクリエイティブな発想をしっかりルーティンに落とし込む組織運動である。
筆者の師匠である野中郁次郎教授は、そのような運動を「クリエイティブ・ルーティン」と呼んでいた。この、言わば「ひきこみ」運動によって、現場の「たくみ」が、組織全体の「しくみ」へと実装されていく。この現場発の知恵をスケールさせていくことが、キーエンス流のイノベーションの極意である。そして、これこそが組織全体に「離」をもたらし、キーエンスを進化させていく。
イノベーションは、自由闊達という名の「ゆるい」組織からは、けっして生まれない。規律(守)の中からこそ、枠を飛び出す型破りな発想(破)が生まれる。そしてそれをしっかり「型」に落とし込む規律が起動して、初めてイノベーション@スケール(離)につながっていくのである。
キーエンス流の守破離の運動論こそ、シン日本流イノベーションの元型、アーキタイプの一つといえよう。
さて、現場がこれだけ規律と自律を発揮する組織において、経営者はどのような役割を担うべきか。