キーエンス創業者が
本社に「化石のオブジェ」を置いたワケ
「経営者の役割は現場をエンパワーすることにある」というのが、キーエンスにおける不文律である。創業者の滝崎氏自身、「権限を現場に委譲して考え方を伝え、現場と一緒に考えないとよいアイデアは生まれない」と常々語り、次のようにも述べていた(※注1)。
「創業当時から自分がいなくても会社が回るようにずっと考えてきました。管理職にも『自分がいなくても組織が回るように』と常に話しています」
「私も含めて古い人が新しい人の仕事の邪魔をしていないか、と気になるのです」とも述べていたという。そして、本社のあちこちに化石のオブジェを置き、過去への執着を断ち切る必要性を組織全体に知らしめていた。
したがって、キーエンスには「経営管理者」という役割は存在しない。滝崎氏の後を継ぎ、2000年から10年間、2代目社長を務めた佐々木道夫氏に、「だとすると、MBAなどという肩書は有害無益ですね」と尋ねてみたところ、にっこりうなずかれた。しかし、経営者の役割は3つあるという。
第一に、キーエンス流の原理原則や組織運動が現場に実装されているかどうか、常に気を配ること。そしてどこかに問題があれば、現場と一緒になってそれを解決すること。
第二に、顧客や自社を取り巻く経営環境が激変する中で、常に先回りして新しい取り組みを現場に促すこと。特に海外では、日本流の「型」をそのまま持ち込んでも機能しないことが多い。運用を柔軟にするだけでなく、逆に現地の知恵から新しい型を全社に伝播するように働きかけること。