やりがい搾取と健全な意味づけ
3つの違い
やりがい搾取と健全な意味づけには、明確に3つの違いがあります。
第一に、「本人の主体性」の有無です。健全な意味づけによる動機づけでは、本人が自分の言葉でその仕事の意義を納得し、説明できる状態にあります。
上司が部下に新規プロジェクトを任せる場合、「この仕事は将来的にあなたのキャリアにプラスになると思うけれど、どう?」と部下への問いかけを起点に対話が行われ、本人が納得に至るというのが健全なプロセスです。
打診に対して、部下が「経験がない分野で不安なのですが……」と返したなら「実は、今回協業する○○社のXXチームは△△の最先端手法を実践している。リーダーの□□さんは面倒見がいい人だし、たぶんいい経験になるよ」という説明があり、部下は「前に面談でお伝えしたように、将来的には△△のスキルも身につけたいと思っていたので、がんばってみます」と納得するといった具合です。
一方、やりがい搾取では、「これは君のキャリアのためなんだから、多少無理でも頑張ってよ」と上司の一方的な決めつけで終わってしまいます。
第二の違いは、「組織との関係性」です。
健全な意味づけでは、前述のように、上司と部下の間に対話と(ある程度、本音を言えるような)信頼関係が存在します。しかし、やりがい搾取では、上下の力関係によって、単に従わせているだけになります。
つまり、「上司の言ったことは絶対なんだから、口答えは許さない」という無言のプレッシャーで、仕事が割り振られるのです。
第三の違いは、「報酬や待遇との連動」です。健全な意味づけには、やりがいに見合った適正な報酬や評価が伴います。上司から「評価に反映したいから、どんなふうに進めたのか詳しく聞かせてほしい」と面談依頼があるなど、成果を正当に評価しようとする姿勢が見られます。
やりがい搾取では、そうした報酬や評価は一切提示されず、「すごくやりがいがあったでしょ、それはお金よりかけがえのないものだよ」と本来支払われるべき対価がなおざりにされがちです。
つまり、やりがい搾取とは、報酬や待遇の不足を情熱や熱意で正当化しようとする行為であり、一方で、健全な意味づけは、「この仕事にはあなたにとっても、こういう価値があるよね」と一緒に意味を作っていくプロセスなのです。
ただし、その境界線はさほど明確ではありません。特に経験不足の若手社員にとっては、判断が難しい場面もあるでしょう。上司も良かれと思って行う指導が、実はやりがい搾取になっているケースも少なくないかもしれません。