上司から与えられた目標でも
自分なりの納得が必要

(4)キャリアやスキルに等価交換性があるか

 やりがいが将来の市場価値や選択肢につながるかも考えましょう。どんなに好きな仕事であっても、その経験やスキルが属人化しすぎて、他の場所では通用しないものばかりになっているなら注意が必要です。

 例えば、その会社や部署でしか使われていない特殊なルールや手順ばかりを覚えても、業界標準のスキルは身につきません。今の仕事を続けた場合に、転職市場でも評価されるスキルが残るかどうかを考えてみて下さい。

(5)頑張る理由を自分で選んでいるか

 自分で選択しているという感覚は心理的なエネルギーの源泉として極めて重要です(これは自己決定理論として体系化されています※1)。

 誰かから言われたからではなく、今頑張っているのは、自分で決めたことなのかどうか。(1)の「自分の言葉で説明できるか」にもつながります。

 こんな実験結果※2もあります。目標は、他人から割り当てられても、自分で設定したものでも、実は達成率に大きな差はありません。ただし、そのためには、自分がコミット(納得)できるものでなければならないという条件がつきます。

※1 Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). The General Causality Orientations Scale: Self-Determination in Personality. Journal of Research in Personality, 19, 109-134.
https://doi.org/10.1016/0092-6566(85)90023-6
自己決定理論を人間の動機づけを理解するための広範な枠組みとして提示した論文。

※2 Gary P. Latham, Herbert A. Marshall (1982). The Effects of Self-Set, Participatively Set and Assigned Goals on the Performance of Government Employees. Personnel PsychologyVolume 35, Issue 2 pp. 399-404
https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1982.tb02204.x
アメリカの57政府機関の職員に行った実験をもとにした調査結果。

 つまり、最終的に自分で選んだという感覚が絶対に必要なのです。上司から与えられた目標でも、自分なりに咀嚼し、納得して取り組めているかどうかが、健全な働き方とやりがい搾取を分ける重要な境界線になります。

 これら5つの中に、もし疑問を感じる項目があれば、一度立ち止まって現状を見直してみることをお勧めします。もちろん、若くて未熟なせいで、長い目で見れば成長につながる経験を、短絡的にやりがい搾取と判断してしまうということもあるかもしれません。

 しかし、だからといって強引な意味づけが許容されるわけではありません。未熟な部下が見えていない未来まで見せてあげることは、上司の責任でもあります。しかも、それは決して一方的な押し付けであってはならず、必ず対話と相互理解を伴うものでなければなりません。