機能低下が著しい米国といかに付き合うか
8月7日、赤沢経済再生相は、軽減措置や自動車関税の早期引き下げに関して「米国側から修正するとの言質を取った」と表明した。米政府関係者は、大統領令を適時修正し、7日にさかのぼって払い戻すと説明したようだ。
米国側の説明では、税率適用が合意と違ったのは事務処理に問題があったという。米国からも、今回の食い違いに対する遺憾が伝えられた。それは、米国政府の処理能力が追い付いていないことを主要閣僚も認めたといえる。
これらは、国際社会での米国の信用失墜につながる問題だ。閣僚が修正し新たな大統領令を出すと表明したものの、最終的な意思決定を行うのはトランプ大統領である。8月中旬時点で、依然として口約束の域は出ていない。
翻ってトランプ氏は「ガザを所有する」と発言した。デンマーク自治領のグリーンランドに至っては、米国の安全保障上必要と主張し、手に入れるために軍事力の行使も排除しない可能性を示唆している。
トランプ氏の独断専行は予測不能だ。世界経済、米国を基軸国家とした安全保障体制に不安、不信と混乱をもたらしている。
米国の専門家も、トランプ政権のリスクに懸念を抱く。クリントン政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏は、「データに基づかない関税を課す大統領の下で、もし財務長官の任にあったなら、抗議の意を込めて辞任する」と見解を示している。ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は、G20から米国を抜いたG19にすべきとの趣旨を発信した。
米国の信用が失墜すれば、先進国の経済安全保障体制は急速に不安定になる。新興国に対するロシアや中国の影響力が拡大し、世界の多極化は急加速するだろう。
わが国は、機能低下が著しい米国といかに付き合うかを真剣に考えるべきだ。口約束だけで双方が認識を共有し、約束通り政策が実行されるとは限らない。
わが国が自国の利益を守るためには、合意に至ったら都度その内容を文書で共有し、国際社会に公表すべきだ。当たり前のことに真剣に取り組むことが、トランプ政権への対応の第一歩といえるだろう。