米国政府の「機能低下」が止まらない!
トランプ政権下、政策・行政運営機能がどうもうまく機能しているようには見えない。交渉相手をイラつかせるための意図的な行動か、あるいは政府内の行政組織の機能が低下しているのか――。米国政府の内情に詳しい専門家に筆者がヒアリングしたところ、彼は開口一番「政府内のスタッフがトランプ氏に十分ついていけていない」と指摘した。
政権発足から4月末までの間に、トランプ氏による大統領令は142に達した。同時期のバイデン前政権の3倍、1期目のトランプ政権と比べても4倍以上だ。大統領令で目まぐるしく政策・行政指示が飛ぶ一方で、連邦政府の対応能力は減殺されたという。政府効率化省(DOGE)によって、連邦職員が解雇されたのも行政能力が低下した要因だろう。DOGEを率いたイーロン・マスク氏との関係が決裂した後も、トランプ氏は公務員の削減を実行している。
7月11日には、外交を担う国務省の職員1000人以上が解雇されたようだ。外交政策の立案と実行を担うプロが少なくなったことで、通商交渉相手との利害を調整するのが難しくなったことは想像にたやすい。閣僚間の情報共有も円滑に進んでいないとみられる。行政組織の業務運営(アドミニストレーション)能力の低下は深刻だと予測される。
また、トランプ氏のSNS投稿や記者質問に対する発言などでも混乱が生じている。トランプ氏は、SNS「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」に「通商相手国との関税を○○%にする」と一方的に投稿した。しかし、税関・国境警備局(CBP)は、SNS投稿に従って新たな関税率を実行することなどできない。
政府の正式な公告のみが、通商政策の実行に不可欠である。いつ、どの国への関税率が、何パーセントになるのか、対象の品目は何か、詳細な内容が明らかにならないため、通関で使用するソフトウエアのアップデートも遅れている。幅広い範囲で行政組織の機能低下が見られる。
そうした状況下、日米関税交渉は進んだ。その結果、合意文書がなく「口約束だけ」という常識では考えられない事態に陥った。赤沢大臣は、「共同文書作成を目指していたら(8月1日の)期限に間に合わず相互関税は25%の上乗せになっていた」と発言している。それだけ、米国の政策・行政運営能力はひっ迫していたということだ。