「聞く」ことはリスクを摘む“最高のセンサー”
リーダーが耳を傾けるべきは、部下の「思い」だけではありません。
現場の最前線にいるメンバーの何気ない発言や懸念には、将来起こりうる問題の予兆や、新たなビジネスチャンスの種が隠されていることが多々あります。
リーダー一人の視界には限界があります。しかし、多様なメンバーからの情報を真摯に受け止めることで、その視野は360度に広がります。
部下の声は、いわば組織の健康状態や外部環境の変化をいち早く察知する「早期警戒システム」です。
彼らの声に耳を傾けることは、問題が深刻化する前に対処し、機会を逃さずに捉えるための、極めて合理的なリスクマネジメントなのです。
「反対意見」こそが、チームの思考を深化させる
リーダーの方針に対し、あえて異を唱える声。それは、決してリーダーシップへの挑戦や抵抗ではありません。
むしろ、計画の盲点を突き、より良い代替案を示唆してくれる「最高のフィードバック」と捉えるべきです。
「なぜ、そう思うのか?」――。この一言から対話を始めることで、単なる意見の衝突は、チーム全体の思考を一段階引き上げるための共同作業へと昇華します。
リーダーが絶対的な「正しさ」の鎧を脱ぎ捨て、反対意見の背景にある論理や危機感を深く探求する姿勢を見せたとき、チームは健全な緊張感を持ち、安易な思考停止に陥ることを防げます。
意思決定の質は、多様な視点のぶつかり合いの中でこそ磨かれるのです。
リーダーの「余白」が、部下の主体性を育む
リーダーが常に完璧な正解を提示し続けると、部下は次第に「指示待ち」の状態になります。
しかし、リーダーが自らの考えをいったん保留し、「君ならどう考える?」と問いかける「余白」を作ることで、部下の当事者意識に火がつきます。
この「余白」は、部下に思考の機会と責任を与え、「自分ごと」としてプロジェクトに向き合う姿勢を育みます。
彼らが自ら考え、提案し、行動する経験は、何物にも代えがたい成長の糧となります。真のリーダーの役割とは、自らの正しさでチームを導くこと以上に、メンバー一人ひとりが自律的に輝ける舞台を整えることにあるのかもしれません。
それこそが、持続的に成果を生み出し続ける、強い組織の礎となるのです。
※本稿は『リーダーは日本史に学べ』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。