「成功は一日で捨て去れ」にも通じる経営姿勢
同書には柳井の言葉が紹介されている。
《「(前略)商売で失敗するということは、自分の財産を含めて全部がなくなるということなんですよ。毎日夢を見たかどうかは、もう覚えていませんが、絶対に商売に失敗してはいけない、というプレッシャーはいつも持っていました」》
これは創業者が抱える孤独な覚悟をよく表している。
柳井氏が実際に「泳げないものは溺れればいい」と語ったのは、社内に緊張感をもたらすためだったと同書は記している。あえて厳しい言葉を選ぶことで、社員の意識を引き締めようとした。
この考えは「成功は一日で捨て去れ」という柳井の別の言葉とも通じる。過去の成果に安住することを禁じ、常に新しい仮説を立て挑戦し続けることを求めた。楽な繰り返しに流されれば、企業は変化に取り残されてしまう。だからこそ、社員一人ひとりが考え、動き、泳ぎ続けることが不可欠だった。
この厳格な思想こそが、ユニクロを世界的企業に押し上げる原動力となったのであろう。
ビル・ゲイツ氏の「Swim or Sink」的思考
ビル・ゲイツ氏も「Sink or Swim」の考えを実践した経営者だった。

マイクロソフトの創業時が克明に記されている「Show Stopper!: The Breakneck Race to Create Windows NT and the Next Generation at Microsoft」には、マイクロソフト社に入社する新人が「Sink or Swim」、つまり自分で努力して成功するか、さもなければ失敗するしかない」という、極めて厳しい環境に置かれることが描かれている。
ゲイツ氏はインターネットを破壊的な変化と位置づけ、マイクロソフトが生き残るにはすぐに方向転換が必要だと強調した。彼の「Sink or Swim」という方針は、大企業が自ら変わるための強い決意を示しているのだ。