その後、2025年4月19日の時点では、ウクライナ軍が掌握した地域の99.5%がロシア軍の反撃により奪還されたとされている。さらに、4月22日のロシア国営のタス通信は、ロシア軍が、ウクライナが掌握している残りひとつの集落を包囲する作戦を開始したと報じ、ロシアがクルスク州を完全に奪還する可能性を示唆した。
このように、ロシアにとって戦況は有利に展開しており、プーチンはトランプが提案した停戦案に対してなお慎重な姿勢を見せている。プーチンはトランプとの個人的な関係を維持しつつ、交渉を長引かせる戦略を取っているのでは、との見方がある。
とはいえ、プーチンにトランプを頼りに停戦を実現したいという願望があるのは事実だと思われる。
いずれにせよ、和平調停を成功に導くための次の焦点は、ロシアとウクライナが交渉のテーブルで直接ディールをすることではないだろうか。
ウクライナ兵を犠牲にして
NATOは無傷でロシアを攻撃
ウクライナ戦争はアメリカを含むNATOがウクライナをロシアと戦わせる構図――代理戦争――である。この戦争で明らかになった“不都合な真実”は、「NATOは加盟国の兵士の“血”は流さず、もっぱらウクライナ兵士の血で贖って、ロシアを徹底的に消耗させようとしていること」である。
事実、英公共放送BBCの推定によれば、2022年2月のウクライナ侵攻開始以来のロシア兵の死者は計11万5000~16万人で、1970年代末にソ連がアフガニスタンに侵攻したときの死者数(約1万5000人)の10倍を上回るという。また、死亡した兵士の平均的な前線での「寿命」は、1ヶ月未満とも言われる。
因みに、英国防省は、2024年9月に、ロシア側の死傷者数を約60万人とする推計を発表した。この数字から見れば、ロシア兵の負傷者は40万人以上に上るとみられる。
一方、2024年9月17日付の米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、ウクライナ軍に関しては自国の推計値として死者約8万人、負傷者約40万人としている(筆者注:ウクライナの発表は“控え目”と見るべきだろう)。
このように、NATOがウクライナ兵を犠牲として、ロシアを消耗させているのは明らかである。ロシアは、兵士の“血”のみならず、夥しい数の武器(戦車、航空機、艦艇など)、弾薬、ミサイルなどを損耗している。