戦争で弱体化したロシアから
かつての領土奪還を狙う中国

 このことに関し、2025年2月3日付の『産経新聞』は〈ロシアの弱体化、危険水準になる極東の戦略バランス シベリアに触手伸ばす中国〉と題する記事で、アメリカの著名な戦略家、歴史家、国際政治学者のエドワード・ルトワック氏が、〈ウクライナ戦争を長期化させれば、習近平がシベリアに触手を伸ばし、ウラジオストクが中国の手中に落ちる恐れがある。〉という趣旨の論説を、以下のように伝えている。

〈戦争の長期化でロシアが弱体化すれば、ロシアが極東シベリア地方への掌握力を失い、シベリアでの中国の影響力拡大を許すことにつながる恐れがある。

 ロシアはこれまで、中国がシベリアに権益を拡大するのを厳重にはね返してきた。ロシアは中国にシベリアの木材を輸出しているが、中国企業がかつてはシベリアに入って樹木の伐採をするのを認めてこなかった(引用者注:しかし近年では、ロシア政府が中国企業に伐採権を売却し、商業伐採が進んでいるとの報道がある)。

 東西冷戦の終結以降、国有企業の撤退などでシベリアの人口はただでさえ減り続けている。対する中国は、ロシアの極東最大の都市で、露太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクの獲得を目指している。ロシアが極東での存在感を保てなくなれば、ウラジオストクが中国の手中に落ちる恐れは強い。

 中露の動向は、両国の間に挟まれたモンゴルの存立にも影響する。中国とモンゴルは1994年に友好協力条約を結び、経済・貿易関係を深めているが、中国は「モンゴルは歴史的に中国の一部だ」とする考えを一切捨てていない。

 中国人民解放軍は2045~50年にモンゴルを併合し、55~60年にはかつてロシアが清朝から奪ったウラジオストクのある沿海地方などを取り戻して国土を回復することを目指している。

 欧州でロシアが強大化することは米欧にとって大きな問題なのは事実だが、中国が存在感を増す極東でロシアが弱体化するのは、はるかに大きな懸念材料なのだ。〉