
2016年の大統領選挙で、「アメリカ・ファースト」(=欧州から手を引く)を掲げるトランプに、ロシアが多大な支援を与えたのは偶然ではない。対ロ軍事同盟であるNATOはアメリカが抜ければ瓦解するし、アメリカに捨てられればウクライナはロシアに対抗できなくなる。そう考えれば、プーチンがウクライナに2022年に全面侵攻した理由も明らかだろう。そう、そのときホワイトハウスには、トランプがいなかったのだ。※本稿は、春名幹男『世界を変えたスパイたち ソ連崩壊とプーチン報復の真相』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
ロシアが全面侵攻する4カ月前に
アメリカは彼の決意をつかんでいた
この戦争(編集部注/2022年2月24日に始まる、ロシア軍のウクライナ全面侵攻)が他の戦争と違う特異な点は、ロシアのウクライナ侵攻計画の詳細を米国が掌握していたことだ。
『ワシントン・ポスト』によると、前年2021年10月、ホワイトハウスの大統領執務室に、アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官、マーク・ミリー統合参謀本部議長、アブリル・ヘインズ国家情報長官、ウィリアム・バーンズ米中央情報局(CIA)長官、ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)らが集まり、その席でロシアによるウクライナ侵攻計画の詳細が報告された。
米国に亡命したオレグ・スモレンコフのあとを継いだ新しいCIAの情報協力者が通報したようだ。スモレンコフと同じように、クレムリンのプーチン大統領執務室への出入りを認められた人物とみられる。