だが、現実は違う。ハマスはイスラエルの“据え者切り(試し斬り)”さながらの空爆や地上侵攻で5万人を超える死者を出しながらも、それに耐え、2023年10月7日の開戦以来今日まで、1年半以上も、再三の休戦交渉に臨んでもイスラエルの提案を拒否し、戦闘を継続している。

 習近平は、イスラエルとガザの間には「海」という障壁がないにもかかわらず、圧倒的な軍事力を持つイスラエルがハマスを屈服できない様子を見て、台湾海峡を隔てる台湾に軍事侵攻した場合のリスク――短期はおろか、長期戦でも台湾を屈服できる可能性は低い――を痛感したはずだ。

戦わずして台湾を得たい中国は
キューバ危機を意識している?

 中国は、孫子を輩出した国である。銃弾を1発も撃つことなく台湾を攻略することが理想である(孫子は、「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」と述べている)。

 中国は台湾への軍事的威嚇や経済的圧力、選挙介入、情報戦を試みてきた経緯があるが、これまで成果を上げていない。

 筆者は、中国人民解放軍で台湾を担当する「東部戦区」が2025年3月2日、台湾海峡の中南部の海域で、軍事演習「海峡の雷――2025A」を実施したのを見て、新たな台湾攻略戦略を突然思いついた。

 それが、中国による「キューバ危機演出戦略」である。

 中国海軍の東部戦区が実施する軍事演習「海峡の雷――2025A」は「識別や警告、排除、迎撃、拘束に焦点を当て、部隊による区域管理、封鎖能力を検証する」としており、台湾海峡の封鎖を想定した訓練と見られる。

 同戦区は2025年4月1日、台湾本島の北方、南方、東方海域で、陸、海、空軍とロケット軍による合同軍事演習を行い、台湾東南沖の西太平洋で空母「山東」の艦隊の活動も確認された。

 翌日の演習に参加した軍種や規模は、同日午前時点で明らかになっていないが、下図のように、2日をかけて台湾本島を囲むようなエリアで演習を実施したことになる。