このときのABEMAのやり方は2の無料開放でした。ワールドカップでは日本代表以外の世界の強豪国の試合も当然ながらサッカーファンには大いに気になるものです。それがABEMAで独占配信されたことから、それまでABEMAを使ったことがなかったサッカーファンはその機会に初めて、自宅のテレビやパソコン、スマホを使ってABEMAを視聴する体験をしたのです。
結果として2022年10~12月期はABEMAを運営するサイバーエージェントのメディア事業は▲96億円の赤字を計上しましたが、藤田晋社長は「W杯への投資は我々としては大成功」だと語っています。
別の例を見てみます。コアなファンが多い格闘技の場合は最近では地上波の生放送は激減し、動画配信サービスでの視聴が主流になってきています。中でも人気の高いコンテンツがモンスターと呼ばれるプロボクシングの統一王者である井上尚弥の世界戦です。
過去7戦はすべて地上波の放送はなく、5戦はドコモが運営する動画配信サービスのLeminoプレミアムが、2戦はAmazonプライムがそれぞれ独占配信を行っています。
井上尚弥の世界戦に関してドコモが採ったのは2の無料ライブ配信でした。これまでLeminoを使ったことはなかった人たちが井上尚弥の試合をきっかけにアプリをダウンロードし、アカウントを開設して視聴をしてくれることになるので、無料開放でも十分に元がとれると考えたのです。
一方でAmazonプライムが採った作戦は1の有料会員に限った配信でした。
Amazonプライムは基本的にはインターネット通販のAmazonの利用者が送料を無料にしてもらうために加入する特別会員で、年会費は税込みで5900円(月額491円相当)です。このプライム会員になるとAmazonプライムの動画配信が無料で視聴できます。
Amazonプライムの会員数は非公表ですが、2021年の調査で日本では1460万人の会員がいると推計されたためAmazonプライムは日本の動画配信サービスの隠れ1位企業だと言われています。