実際にはAmazonのプライム会員になっても、配送料無料サービスだけを使っていてプライムビデオを視聴しないユーザーが一定数いるはずです。ですから、戦略的には2の方式で井上尚弥の世界戦を無料開放することでプライムビデオを視聴する人の数を増やす方法も採りえたはずです。

 しかしAmazonが選んだのは1の有料会員数を増やす方法でした。ここもあとで重要なポイントになるので記憶しておいてください。

 さて、このような前例からネットフリックスはWBCの独占配信に関してどのような料金設定をするのでしょうか?価格設定の権限を持っているのが日本人なのかアメリカ人なのかで、判断が分かれるかもしれません。

 仮に合理的なアメリカ人が今回の価格設定を考えるとしたら、選択する戦略は間違いなく1の有料会員限定のはずです。理由はネットフリックスの株主からの要求は成長であること、そして日本市場ではすでに会員数は1000万人を超えていて、ここから先の有料会員数の上積みは通常の手段ではなかなか難しいという理由です。

 シンプルに考えれば大谷翔平という日本市場で一番力を持つキラーコンテンツに150億円を投資したわけですから、その力を使って新規会員数の増加をはかるべきでしょう。

 一方で日本人であれば今回、ネットフリックスが1の選択肢を採ることのリスクに気づくはずです。すでに日本では今回のニュースを目にした日本人が、「地上波でWBCが見られないなんて!」と憤慨しています。この状況ではちょっと燃料を追加するだけで日本のネット民が炎上することは必至の危険な状態です。

 特にテレビ局のグループ会社である新聞社を敵に回すととんでもないことになりえます。読売、朝日、毎日、日経、産経の5紙はその気になれば世界的スポーツイベントの放映権料の高騰に反対するキャンペーンをいくらでも張ることができます。ですから日本社会に精通した人が採る作戦は2の「今回に限って無料」の一択になるはずです。