大人も、良い評価や肯定的なコメントを聞くと、それにふさわしい行動をとろうとすることがあります。子どもも同様に、自分の良い評判を維持しようとする気持ちが、道徳的な行動を促すことが実験で確認されています。

 3歳から5歳の子どもを対象に、クラスメイトからの良い評判が、子どもの行動に影響を与えるかどうかを調べた研究があります(注6)。この実験では、子どもに「クラスのみんなが、あなたのことを良い子だと言っていた」と伝え、その後に正解を盗み見ることができる状態でクイズを解かせました。

 3歳児には良い評判を伝えても効果はみられませんでした。しかし、4歳児と5歳児では、「良い子」と評されていることを伝えると、カンニングをする子どもが減ったのです。つまり、4歳頃から、子どもは自分の良い評判を維持しようとして、不適切な行動を抑えるようになると考えられます。

 さらに、褒められる内容によって行動が変わることもわかっています。3歳と5歳の子どもに対して、「賢いね」と能力を褒める場合と、「がんばったね」と努力を褒める場合の影響が調べられました。

 その結果、3歳児と5歳児ともに「賢いね」と褒められた子どもは、推理ゲームでカンニングをすることが増え、「がんばったね」と褒められた子どもは、カンニングをしない傾向がありました。これは、「賢い」と能力を褒められた子どもは、自分の評判を維持するために賢く見せなければと感じ、プレッシャーからカンニングをしたと考えられます。一方、「がんばったね」と努力を褒められた子どもは、次回もがんばればよいと捉え、不正をする必要を感じなかったのです。

能力を褒められた子と
努力を褒められた子の違い

 この研究結果は、子どもの褒め方に関する他の研究とも関連しています。小学生のテスト結果に対して「頭が良いね」と能力を褒める場合と、「よくがんばったね」と努力を褒める場合を比較したところ、能力を褒められた子どもはやる気を失いやすいのに対し、努力を褒められた子どもはその後のテストにも粘り強く挑戦し続けました。

注6 Fu, G., Heyman, G. D., Qian, M., Guo, T., & Lee, K. (2016). Young children with a positive reputation to maintain are less likely to cheat. Developmental Science, 19, 275-283.