実験では、子どもがボール投げゲーム中に、得点を上げるためにルール違反をするかどうか(例:規定外の投げ方をする、得点しやすい場所に移動する)を観察しました。その結果、誰にも見られていない場合(3)にはルール違反が多くみられましたが、プリンセス・アリスが見ていると教えられた場合(1)は、大人が見ている場合(2)と同じ程度にルール違反が抑えられました。
さらに、プリンセス・アリスの存在を信じた子どもは、懐疑的な子どもよりもルールを守る傾向が強く、大人に見られている場合よりも違反を抑制することがわかりました。
これらの結果は、目に見えない他者の存在を意識することで、子どもの不正行為が少なくなることを示しています。たとえ実在する他者が見ていなくても、見えない存在を教えることで、子どもの行動に影響があり、道徳行動が促されるのです。
万引き防止などの「目のイラスト」
5歳児にはどう影響する?
私たちは、「見られている」ということにとても敏感です。
大人を対象とした研究では、目の写真やイラストを掲示するだけで、寄付が増えたり、片付けを積極的に行ったり、嘘をつくことが減るなど、道徳的な行動が促されることがわかっています(ただし近年、再現性の問題が一部で指摘されています)。
では、この「目」の効果は子どもにもみられるのでしょうか。そこで私たちは、5歳児を対象に実験を行い、その効果を調べました(注5)。実験では、子どもの前にシールを10枚置きました。そして、そのシールは他の子どものものであることを伝えた上で、欲しければ取ってもよいと説明しました。その際、隣で大人(実験者)が見ている場合、目のイラストが掲示される場合(図版2―2)、観察者なしの場合の3つの条件を設定し、子どもが取ったシールの枚数を調べました。

注5 奥村優子・池田彩夏・小林哲生・松田昌史・板倉昭二(2016).幼児は他者に見られていることを気にするのか:良い評判と悪い評判に関する行動調整.発達心理学研究,27,201-211.