「なんもしない人(僕)を貸し出します」という変わったサービスを提供する、レンタルなんもしない人さん。当初は、ビジネスになるかどうか半信半疑でスタートしたというが、メディア化を機に知名度が急上昇した。今回は、そんなレンタルなんもしない人さんがサービスを始めたきっかけや、独自のおカネ観などをインタビュー。一歩踏み出してやりたいことに挑戦するかどうか悩んでいる人も、ぜひ参考にしてほしい!(渡辺賢一、ダイヤモンド・ザイ編集部)

「ダイヤモンド・ザイ」2025年10月号の「あの人に聞きたい! おカネの本音!」を基に再編集。データはすべて雑誌掲載時のもの。

“なんもしない”ことがビジネスとして成立するか
“実験”の感覚でスタートし、7年が経過!

――いまや書籍や漫画、ドラマにもなり、すっかりおなじみの「レンタルなんもしない人」ですが、どんなサービスなのでしょうか?

レンタルなんもしない人 例えば「1人では入りづらいお店に付き添ってほしい」とか、「ゲームの人数合わせに参加してほしい」など、“もう1人いてくれたら助かる”という場面で、僕を貸し出しています。ただし、現地には行きますが、基本的に飲み食いや、ちょっとした会話を除いて、「なんもしない」のがルールです。料金は自由設定にしていて、交通費と飲食代などの実費だけご負担いただいています。出発地点は東京・国分寺です。

レンタルなんもしない人さん・プロフィールレンタルなんもしない人さん●1983年生まれ。既婚、一男あり。大阪大学大学院博士前期課程修了。数学の教材執筆や編集などの仕事をしつつ、コピーライターを目指すも方向性の違いに気づき、いずれからも撤退。「働くことが向いていない」と判明した現在は「レンタルなんもしない人」のサービスに専従。活動開始から7年、BBCやロイター、ワシントンポストなど海外メディアにも取り上げられ、「なんもしない」サービスが世界にも知られつつある。著書に『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』(晶文社)、『〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。スペックゼロでお金と仕事と人間関係をめぐって考えたこと』(河出書房新社)など多数。

――「なんもしない」のにおカネがもらえるというのはオドロキです!

レンタルなんもしない人 最初の頃は、自分でも本当にサービスとして成り立つのか半信半疑でした。でも、気づけば2018年からスタートして、もう7年も続いています。それだけ需要はあることは確信できました。

 そもそも、このサービスを始めたのは、「なんもしない人を貸し出す」というビジネスが成立するかどうか、いわば“実験”として試してみたかったからなんです。さらに言えば、僕はもともと生まれつき面倒くさがりで、基本的には「なんもしたくない」タイプです。そんな自分が、そのままの性格で立ち振る舞うだけで、人々の役に立つ存在たりえるのかどうか、検証してみたいという思いもありました。

――でも、聞くところによると、かなりの高学歴だとか。

レンタルなんもしない人 最終学歴は大阪大学大学院理学研究科の博士前期課程です。アインシュタインの相対性理論に感銘を受け物理学を専攻し、地震のメカニズムについて研究していました。

――めちゃくちゃ優秀じゃないですか! 受験勉強は、かなり頑張ったんじゃないですか?

レンタルなんもしない人 いえ、好きなことには熱中するんですが、それ以外は本当に「なんもしたくない」んです。学生時代も「勉強はできるのに、普段はボーッとしてるね」なんてよく言われてました。大学院を出て、教育系出版社に就職したんですが、3年で辞めてフリーライターに転身。そこそこ稼いではいましたが、仕事は不安定。「このままでいいのかな」と悩むこともありました。

――もともと出版社にお勤めだったんですね。そこからどのような経緯で、現在の活動へとつながっていったのでしょうか。

レンタルなんもしない人 フリーライター時代に、テレビで「プロ奢(おご)ラレヤー」という人を知ったんです。人から奢られることだけで生きている、それは衝撃的でした。「そんなことができる人がいるんだ」と目が覚めるような感覚でした。

 ちょうどその頃、ニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』を読んでいたんです。世間の常識に縛られず、自分の内から湧き上がる意志を原動力にして生きる“超人”という思想に惹かれました。

 それと、同じくらいの時期に心理カウンセラーの心屋仁之助さんが提唱する「存在給」、つまり、“生きているだけで価値がある”という考えに共感したんです。もし“存在そのもの”に価値があるとするなら、自分にも何かできるかもしれないと思いました。そんなとき、「プロ奢ラレヤー」という実践者に出会い、ニーチェの思想と現実がつながった気がしたんです。

――思い切った試みですよね。そういう未知のことに飛び込む時、迷いはなかったですか?

レンタルなんもしない人 僕は姉を早く亡くしていて、その経験から「人はいつか死ぬ。だったら、自分のやりたいことをやるべきだ」という思いは人一倍強いかもしれません。だから、“レンタルなんもしない人”を始めることに迷いはありませんでした。