データが示す築20年の壁
見えない劣化が耐震性を脅かす

 では、その経年劣化は、具体的にいつ頃から顕著になるのだろうか。さくら事務所が蓄積してきたホームインスペクション(住宅診断)のデータを見ると、興味深い傾向が浮かび上がってくる。多くの住宅で「築20年の壁」とでも言うべき現象が起きているのだ。

 データによれば、建物の「傾き」や「シロアリ被害」、構造部分の「腐食」、そして「雨漏り」といった、住まいの根幹を揺るがす重大な不具合はこの築20年を境に発生率が急増している。つまり、家の耐震性能が、設計だけでなく、その後の維持管理や経年劣化の状態といった「建物の履歴」にも大きく左右されることを示しているとも言えよう。

 たとえ2000年基準を満たした優れた設計であっても、施工品質やその後の維持管理の状態によって、実際の性能は大きく変わる。例えば、雨漏りによって柱が腐食していれば、図面上の強度はもはや意味をなさなくなってしまうのだ。

後悔しないための中古戸建て選び
重要な「3つの新常識」とは

 ここまで、中古戸建てに潜む複合的なリスクを解説してきた。これらを踏まえ、安心して暮らせる価値ある一戸建てを手に入れるためには、具体的にどうすればよいのだろうか。

 まず、「基準」で大きなふるいにかけることだ。“新”耐震という言葉に惑わされず、「2000年6月1日以降の建築確認」を一つの明確な目安としたい。これが、現代の耐震性を考える上でのスタートラインと言えるだろう。

 次に、その基準を満たした上で、「現物」の状態を自分の目で確かめること。専門家によるホームインスペクションを活用し、建物の「今」を客観的に把握することが大切である。図面だけではわからない劣化状況や施工不良の有無を客観的に把握する。さらに、耐震性に懸念がある場合は、専門家による耐震診断まで実施し、建物の「今」の性能を正確に知ることが、後悔を避けるための最善策と言えるだろう。

 最後に、「書類」の確認を徹底することをおすすめする。将来のリフォームの可能性を考えれば「検査済証」の有無は極めて重要であり、過去の「リフォーム履歴」も貴重な情報源となる。こうした専門的な確認作業は個人では難しい。だからこそ、物件探しから契約までをサポートしてくれる信頼できる不動産仲介業者をパートナーに選ぶことが大切になってくる。

 価格や立地だけで判断するのではなく、この3つの視点を複合的に用いること。それこそが、中古戸建てを単なる「割安な選択肢」から、真に「価値ある資産」へと変えるための、これからの賢い選択と言えるだろう。

(株式会社さくら事務所創業者・会長 長嶋 修)

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