今じゃ大人気の『アンパンマン』が、当初子どもに刺さらなかった理由【あんぱん第118回】

『やさしいライオン』の人間批判

 蘭子も八木も口が固い。でも、嵩も気づけよって思う。ある日、たまたま嵩が読み聞かせの現場(八木の会社の一室を借りている)に通りかかり、やっと気づいた。

 そのとき子どもたちは「よくわからなかった」「怖い」とまで言ってテンションが低い。嵩は落胆する。

 子どもたちはどこに「怖い」と感じるのか。アンパンマンが撃ち落とされてしまうからだろうか。まだ自分の顔を食べさせるバージョンにはアップデートされていないはずだが……。

 アンパンマンはいつかきっと高く空を飛ぶと信じるのぶ。「私、諦めんきね」と根拠なき自信を見せる。

 嵩の初監督作『やさしいライオン』はたぶん、子どもにも受けていただろうに。アンパンマンは受けない。

 手嶌治虫(眞栄田郷敦)が『千夜一夜物語』を手伝ってくれたお礼に初監督作の製作費を出してくれて作ったアニメーション映画は70年に公開された。

 初監督作というのにその過程はまったく描かれず、あっという間にできていた。ミュージカル動画って相当、作るのが大変だと思うのだが。まあいい。

 犬のムクムクに育てられたライオンが大きくなって、サーカスで働いていたが、育ての親のムクムクへの思慕が募って町に飛び出し、人間に殺されてしまう。

「ビスケットが好きなのに」(子どもの声)

 ビスケットが好きなやさしいライオンがなぜ殺されなくてはいけないのか、子どもが問うと、母親が「この世のなかが人間のために都合のいいようにできているからよ」と答える。

「ビスケットが好きなのに」という無垢なセリフにグッとくる。

 そして「この世のなかが人間のために都合のいいようにできているからよ」という人間批判に、いつまでも戦争を続ける世界への嘆きと、変革を求める希望を感じる。自分の利害を優先して、都合の悪いものを排除しようとする。それは戦争である。

 史実では『やさしいライオン』のムクムクの声は増山江威子。『ルパン三世』の峰不二子役を長年やっていた。ドラマではムクムクの声は不二子役を引き継いだ沢城みゆき。増山の声に寄せていたような気がした。

 ドラマでブルブルの声を担当したのは、『アンパンマン』でカレーパンマンの声を担当している柳沢三千代。
『アンパンマン』から『ルパン三世』までアニメーション(声優)の歴史に配慮したキャスティングであった。

 その上映に、羽多子(江口のりこ)と登美子(松嶋菜々子)が偶然見に来ていてばったり会う。

 ふたりとも感涙している。登美子は涙を見られて、自分は「ムクムクじゃなくてムカムカですから」と根に持っている。決して完全に仲良くならないのが登美子のいいところ。

 育ての親の話ではあるが、実母の羽多子と登美子の母心も大いに揺すぶったのであろう。

 こんなとき、育ての親代表格の千代子(戸田菜穂)はどうしちゃっているのだろうと思うが、ラジオドラマを聞いて感じ入っていたからそれで完結しているようだ。