甲子園の応援席を舞台にした
『アルプススタンドのはしのほう』
同作は2016年に兵庫県立東播磨高等学校演劇部によって上演され、翌年の第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞、全国の高校でリメイク上演されるなど大きな人気を博し、2020年には映画化もされた。
この作品は、高校の野球部が夏の甲子園に出場したため応援に駆り出された4人の生徒たち(演劇部員の安田と田宮、元野球部員の藤野、成績優秀な宮下)による会話劇だ。野球部の試合が展開していくなか、甲子園球場のフィールド内ではなく応援席の「アルプススタンド」で、4人それぞれの心の変化が描かれる。
野球部が大会で勝ち進むと学校が「全校応援」を企画し、他の生徒たちが半ば強制的に駆り出されるというのは、多くの高校でよくある光景だ。他の部活が勝ち進んでも全校応援など企画されないのに、なぜか野球部が勝ち進むと他の生徒が応援を強制される。こうした全校応援に対して批判的なスタンスをとる生徒の考えは、言葉にすると次のようなものだろう。
そもそも部活動は個人個人のやりたいことを出発点にしている。演劇が好きでやりたい生徒もいれば、野球が好きでやりたい生徒もいる。それはそれで個人の勝手で結構だが、文化部の大会には学校を挙げての全校応援なんてしないくせに、なぜ野球部だけが全校応援され、野球に興味のない他の生徒まで出席を事実上強制されるのだ。それに、なぜか野球部だけが試合をテレビ中継されたり、新聞報道される。こんなことは不公平ではないか――。
『アルプススタンドのはしの方』の登場人物たちも当初、こうした個人主義的なスタンスを明確にしている。しかし、しだいに野球部の選手たちの頑張りに感化され、自分は脇役ではなく、自分もまた「人生の主人公」であることに気づき始める――というふうに、本作のストーリーは進んでいく。
批評家の北村紗衣はこの作品について、自身のブログで以下のように評している。







