人民の不満を吸収するために
ナショナリズム動員に依存
習主席が軍事パレードに力を入れた背景には、国内統治上の危機感がある。中国経済は長期的な減速局面に入り、不動産バブル崩壊、若年層の高失業率、地方政府の債務危機などが社会不安を増幅させている。
また、中国からは人材や資本の海外流出が続き、習指導部はそれを食い止めようと躍起になっているものの、功を奏していない。
2025年夏には重慶の高層ビルで習指導部を批判するスローガンがライトアップされたと『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じた。習指導部の求心力低下が可視化されたとも言われる。
https://www.nytimes.com/2025/09/02/business/china-chongqing-protest.html
こうした人民の不満を吸収するために、習主席は「対外的脅威」と「愛国心の高揚」を利用するナショナリズム動員に依存せざるをえなくなっている。
抗日戦争の記憶は、中国共産党にとって政権正当性の中核である。毛沢東以来、「日本に勝利したのは国民党ではなく共産党」という歴史観が徹底されてきた。反対にいえば、中国にはまだ反米を表看板にできるほどの実力が備わっていないのである。
習指導部が「抗日」を利用するのは、この歴史観を踏まえたプロパガンダの一環に過ぎない。
2015年の成功から一変
浮き彫りになった国際的孤立
10年前の2015年の抗日戦勝70周年パレードは成功だったと見ていいだろう。
当時は49カ国の代表団が参加し、そのうち30カ国以上が首脳級であった。韓国の朴槿恵大統領が出席し、欧州からもチェコ大統領などが参加した。中国が「国際社会の戦勝国」としての地位を誇示し、中国の政治力と経済力の拡大を示すには十分なものだった。
ところが、2025年は状況が一変してしまった。
上述したように参加国は26カ国にとどまり、顔ぶれは反米色の濃い「いつものメンバー」である。2015年に朴槿恵大統領が習主席の隣に陣取った韓国は、今回は参加を見送った。インドやインドネシアといったグローバル・サウスの大国も不参加である。
2015年には中国に配慮する国もあった欧州だが、中国の人権問題の高まりによって欧州の首脳級は参加しにくい状況にある。そのため、中国の外交的多様性は失われ、「仲間内のイベント」にとどまったと言っていいだろう。
2025年のパレードは、2015年の「国際的成功」と対比して、中国の国際的孤立を浮き彫りにする「縮小再生産」にすぎない。