「経済が政治を左右する」
に象徴される中国の政治経済
「経済基礎決定上層建築」
筆者が中国の北京大学で国際関係を学んでいた2000年代、所属学部における国際関係や外交の授業、及び全学必修の「マルクス主義原理」や「毛沢東思想」といった授業の中で、幾度となく触れた、マルクス主義理論に基づいた言い回しである。
「経済基礎」とはその名の通り、生産力や生産関係などを中心とした経済的状況であり、「下部構造」を意味する。対する「上層建築」は「上部構造」、即ち政治やイデオロギーを指す。
冒頭で記した10文字の中国語は、下部構造という経済的な土台が、法律やイデオロギーを含んだ政治的な状況を因果的に決定するという、建築物に例えた概念ということである。
我々はしばしば「中国は政治の国だ」、「中国では政治がすべて」という角度から中国という国家や社会を理解し、議論しようとする。2013年3月に本格始動した習近平政権になって、中国という国の「政治色」は益々強まり、権力を中心とした政治的要素が他の全ての領域(経済、言論、社会など)を凌駕、支配、圧倒しているというのが大方の見解であろう。
一方、自らをマルクス主義の忠実な体現者だとし、近年主張する「中国式現代化」というのはマルクス主義を時代的に中国化したものだと定義する習近平政権が、「経済基礎決定上層建築」という、言ってみれば、「経済が政治を左右する」という基本的な因果(関係)性を放棄したわけでは到底ない。
中国政治を扱う本連載が最も注目する中国共産党の正統性という観点からすれば、経済動向がどう推移しているかという問題は、習近平総書記率いる中国共産党の権力基盤や正統性を直接的、あるいは間接的に左右、決定し得るのである。
より砕けた言い方をすれば、経済が悪くなり、人々が生活に困れば、政治の権力や安定などというものは、いとも簡単に吹っ飛んでしまう、とさえ拡大解釈できてしまうのである。
政治がすべてに見える習近平政権にとって、経済が有する重要性や影響力は、中国という国家の政治経済構造において、本質的には何も変わっていないと見るべき所以である。