考えすぎると余計に不安になり
自信を失ってしまう

 自分自身を顧みると、私は誠実性と神経症傾向の両方の要素が高いと思う。締め切り(目標やストレス要因)を前に「自分ならできる」と思えることもあれば、「もうダメかもしれない……」とへこむこともある。真面目なビジネスパーソンも、両方の要素が高い人は少なくないのではないだろうか。そのときは「考えすぎないことが大切」と増井研究員がアドバイスする。

「研究者の中には『不安感が高いから頑張らなきゃ』と、むしろ神経症傾向と誠実性が相乗効果のように良いほうに働くこともありますが、それでも考えすぎはよくありません。考えすぎることが、うつ症状とも関係します。ずっと頭の中に同じことをとどめておくことで余計に不安が高まり、自信を失ってしまうのです」

「神経症傾向が高い男性」が
陥るもう一つの問題点

 神経症傾向についてはもうひとつ、ネガティブな報告がある。

 東京都健康長寿医療センターの吉田祐子研究員らは2022年、「性格特性と多剤処方(ポリファーマシー)」の関連を調べ、「神経症傾向の男性は、多剤処方になりやすい」と発表している。5種類以上の服用で多剤処方とされ、多くの薬を服用することでふらつきや転倒など、さまざまな副作用発生のリスクが高まる。

 実際に同研究では70歳群、80歳群、90歳群に分けて3年間の追跡調査を行ったところ、服用する薬剤が増えるほど握力が低くなったり、歩行速度が遅くなったりするなどの身体機能低下が見られる。前回の記事で述べたように、歩くスピードが遅いと認知機能が低下するリスクが高まり、健康長寿にはならない。

 慢性疾患の要素を差し引いても「神経症傾向が高い男性」が多剤処方になってしまうのは、「精神疾患を患ったり不眠症に悩みやすかったりするからかもしれない」と増井研究員は考える。

患者のかかりつけ医でない限り
他院の医師による処方に口を挟めない

 それならなぜ医師側が多くの薬を処方することをやめないのか? と疑問に思う読者もいるだろう。私は週刊誌で「多剤処方の実態」を記事にしたことが何度かあるが、そのときの取材執筆を思い返すと、理由は二つあると思う。

 ひとつは医師には「患者を治したい」という思いが根底にあるため、薬が不要と思われるケースでも「薬を飲まないで家で寝ていなさい」とは言いづらく、患者が不調を訴えれば(それが他院で処方した薬の副作用かもしれないのだが)新たな薬を処方しやすいということ。

 もうひとつは患者が複数の医療機関を受診している場合、服用している薬を整理して「減薬する」判断を取ることは、他院の医師による診断や治療に口を挟むことになるため、患者のかかりつけ医でない限り難しいということだ。

 さてここまで「性格と行動」を中心に紹介してきたが、そもそも性格や長寿に遺伝的要素はないのだろうか。