“薄利多売”売上至上主義の日本外食産業
世界に打って出る競争力も資金もない

 マクドナルドの強みは、低価格路線、フランチャイズ展開、ブランド力、メニュー戦略、オペレーションなどです。手頃な価格で商品を提供することで幅広い客層に支持され、多くの店舗をフランチャイズ展開することで、出店コストを抑え安定的な収益源を確保しています。メニュー戦略やオペレーションはスタバと同じです。メニュー戦略には魅力的なセットメニューの展開を加えておきます。また、「マクドナルド」というブランドは、手軽に食事を済ませられる場所として広く認知されており、そのブランド力により安定的な集客が見込めます。

 日本の外食市場は高品質な商品やサービスを求める傾向が強く、スターバックスやマクドナルドの戦略が受け入れられやすい土壌があります。その市場傾向を踏まえ、テレビCMやSNSを活用した積極的なマーケティング戦略により、ブランドイメージを高め、顧客の来店を促進していることも両社に共通します。これらの要因が複合的に作用することで、スターバックスとマクドナルドは日本で高い利益率を維持しているのです。

 スタバとマック、外資の飲食チェーンが強いのは、世界でもまれてきた経験があるからです。ぼくも外資系食品会社で鍛えられたのでよく分かりますが、食品の販売には気候や文化的な要素が大きく影響します。

 ネスレ本社のあるスイスや巨大市場のアメリカでよく売れるからといって、日本の消費者にも受け入れられるとは限りません。まったく同じものを売っていたのでは売れないこともあるのです。

 例えば、キットカットですが、イチゴ味とか抹茶味などコーティングするチョコレートの味やフレーバーを変えて定番のラインアップを揃えたり、季節限定や地域限定の商品を投入したりしているのは日本だけです。日本の消費者は新しいものが好きで、飽きやすい傾向があるからと、限定商品による付加価値を付けて売価を上げる戦略も日本ならではです。

 ぼくも正確には知らなくて驚いたんですが、ネスレ日本の現在の公式サイトによると、みそ、日本酒、きな粉などなど、これまで実に400種類を超えるキットカットを作っているそうです。ぼくは、せいぜい100種類ぐらいやと思っていました。

 飲食チェーンが母国を離れ外国に進出するためには、そのような苦労があります。スターバックスにしてもマクドナルドにしても、地域限定のメニューを開発したり、メニューは同じでも地域によって微妙に味を変えたりしてその地域の消費者のニーズに応える努力をしています。

 マクドナルドのてりやきマックバーガーは日本限定のメニューです。韓国にはプルコギバーガーがあります。マクドナルドの企業パーパスは「おいしさと笑顔を、地域の皆さまに」です。アメリカ人のソウルフードを世界に広めて、美味しさと笑顔を「地域の皆さまに」届けることを企業の存在意義と規定しています。その志があったからこそ世界に広がっていったのでしょうが、その過程でグローバル経営のノウハウと、売上を拡大し利益率を上げていく戦略・戦術が研磨されてきたわけです。志があっても、利益が上がらなければサステナブルにはなりません。

 他方、飲食に限りませんが、日本の企業はこれまで、従業員を安い給料で働かせて“薄利多売”の売上至上主義で成長してきましたから、世界に打って出るための競争力も資金もありません。日本の飲食チェーンの味のレベルは非常に高いのですから、もったいない話だと思います。

 特に、寿司とラーメンは世界チェーンに成長できるポテンシャルを持っていると思います。そういう日本の宝を世界に広げていく志と努力が、これまで外食業界には欠けていたのだと思います。

Key Visual by Kaoru Kurata