
「失われた30年」で賃金も世界に大きく後れを取る今日の日本経済の惨状を招いたのは、日本の大企業やその経営者だ。ネスレ日本でキットカットの受験キャンペーンの大成功などの成果を上げ、10年にわたってCEOを務めた高岡浩三氏が、最新決算などを踏まえて日本の大手企業を本音で評価した『企業の通信簿』。今回は、同書から一部抜粋し、トヨタ自動車やセブン&アイ・ホールディングスが抱える世界標準とはかけ離れた問題点を通じ、株主とガバナンスを巡る日本の大企業の課題に迫る。
少数株主の創業家が力を持つ大企業
セブン創業家の買収防衛策の迷走
少数株主であるにもかかわらず、創業家が隠然たる力を持っている大企業があるのも、世界標準とはかけ離れた、日本の常識です。株式会社は株主のものであることを理解していないことの分かりやすい例で、トヨタ自動車やセブン&アイ・ホールディングス(旧イトーヨーカ堂)がその典型です。
セブン&アイは2024年、カナダのコンビニエンスストア大手、「アリマンタシォン・クシュタール」から買収提案を受けました。セブン&アイはコンビニ大手セブン-イレブンの親会社ですから、多くの人がそのニュースに驚いたはずです。
買収提案に対し創業家が対抗策を提案しました。創業家がセブン&アイの株式を買収し非上場化するMBOの手法による防衛策です。迷走の始まりです。
驚くべきことに、セブン&アイの経営陣は創業家の提案を受け入れ、社外取締役だけで構成する特別委員会で検討するとアナウンスしました。セブン&アイの時価総額は6兆円規模といわれ、創業家の資産管理会社である伊藤興業が金融機関などと協議を始めましたが、資金調達の目処(めど)が立たなくなったため25年2月に断念をアナウンスしています。このため、セブン&アイは再び、買収受け入れか自力での企業価値向上かの判断を迫られることになりました。
提案は、具体的には伊藤興業によるものでしたが、伊藤興業はセブン&アイの株式の8%を所有しているに過ぎません。現経営陣や執行陣は、その創業家の意向を受け入れざるを得ないと判断し、翻弄されたわけです。