高岡浩三の「企業の通信簿」#5Photo:Anadolu/gettyimages

「失われた30年」で賃金も世界に大きく後れを取る今日の日本経済の惨状を招いたのは、日本の大企業やその経営者だ。元ネスレ日本CEOの高岡浩三氏が、最新決算などを踏まえて日本の大手企業を本音で評価した『企業の通信簿』。今回は、同書から一部抜粋し、フジテレビ不祥事で浮き彫りになった日本企業が抱える経営問題を指弾する。高岡氏が疑問視する、フジの長時間記者会見でメディアが問題視しなかったガバナンスの大問題とは?

フジテレビ長時間会見で発表された社長人事
株主総会軽視なのに問題視する記者がいない

 フジテレビは、国民的アイドルグループだったSMAPの元メンバーの中居正広氏とフジテレビ関係の女性との“トラブル”に、男性幹部社員が関与していたのが疑われたことから、スポンサーの大半が広告出稿を停止したため、社長、会長らが辞任する事態に追い込まれました。発覚当初から、中居氏は女性側に9000万円を支払うことで示談が成立したと報道されていましたから、相当な“トラブル”だったことは容易に推察できましたが、後に設置された第三者委員会は、調査報告書で中居氏による「性暴力」を事実として認定しています。

 事態の収拾のためフジテレビは、親会社のフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の新社長に清水賢治氏が就任し、新たな社外取締役に元ファミリーマート社長の澤田貴司氏を迎えるなど、経営体制を刷新しました。フジHDの会長兼フジテレビ会長だった嘉納修治氏と、フジHD取締役兼フジテレビ社長だった港浩一氏は辞任し、長年、フジテレビを支配してきた日枝久取締役相談役もすべての役職の退任に追い込まれました。

 今回の問題では、最初の記者会見で参加者を制限し、テレビカメラを入れなかったことが批判され、やり直した会見は異例の10時間にも及びました。清水新社長の抜擢もくだんの記者会見で発表されました。

 その記者会見を見ていて最も違和感を持ったのは、社長人事があたかも決定事項のように発表されたことです。社長も含め株式会社の執行役の人事は、正式には株主総会に議案を提出し決議を経て決定されるものです。にもかかわらず、後継人事を少数の取締役で決定するのは当たり前とでも言っているような様子でした。

 集まったメディアにも、それを問題視する記者は一人もいませんでした。それは、日本の株式会社で最高意思決定機関である株主総会が軽視され、ガバナンスが利いていないことの象徴のような光景でした。