高岡浩三の「企業の通信簿」#4Photo:Bloomberg/gettyimages

「失われた30年」で賃金も世界に大きく後れを取る今日の日本経済の惨状を招いたのは、日本の大企業やその経営者だ。元ネスレ日本CEOの高岡浩三氏が、最新決算などを踏まえて日本の大手企業を本音で評価した『企業の通信簿』。今回は、同書から一部抜粋し、日本の自動車産業の課題に迫る。日産・ホンダの統合破談を巡り、日産経営陣が犯した決定的な間違いとは?

日産とホンダの経営統合破談は「順序が逆」
もしもまとまればホンダも危ういと思っていた

 自動車業界では2024年、ホンダと日産の合併話で激震が走りました。

 12月23日に経営統合へ向けた協議入りを発表し、2026年8月に持ち株会社を設立し両社が傘下に入る予定でした。しかし、ホンダは経営統合の前提条件として日産に強く求めていた経営立て直し策が不十分な上、経営陣の意思決定が遅いことに痺れを切らし、ホンダの完全子会社になって傘下に入ることを日産に打診します。これに反発した日産は2025年2月13日に統合協議を打ち切ることを決め、両社の経営統合は破談となりました。

 後出しじゃんけんだといわれるかも分かりませんが、ぼくは最初にこのニュースを聞いたときに、絶対まとまらないと思いました。もし、まとまるようなことになれば、ホンダも危ないとも思っていました。

 なぜなら、順序が逆だからです。

 日産の業績は2020年度を底に2023年度までは回復基調にありました。自動車事業(日産の事業セグメントは、自動車事業と販売金融事業の二つ)は2022年度から黒字化し、2023年度には円安効果にも助けられて5687億円の営業利益を計上しています。

 ところが、その自動車事業は2024年度に急に失速しました。2024年11月に公表した4月から9月までの中間決算では、主力のアメリカ市場での販売不振などから営業利益、最終的な利益ともに90%を超える大幅な減益です。

 決算発表の記者会見では、経営の立て直しに向けて世界で生産能力を20%削減し、9000人の人員削減を行う方針を明らかにしました。当時の内田誠社長は「このような厳しい状況を迎えていることは私自身、痛恨の極みです。世界で13万人以上の従業員とその家族の生活を預かる身として責任を痛感している」と述べています。

 その約1カ月半後に発表されたのが、ホンダとの経営統合協議です。誰がどう考えたっておかしいでしょう。