社会統制と体制安定がもたらす
「崩壊しない構造」

 中国経済が急激に崩壊しない背景には、経済の仕組みだけでなく、政治体制や社会の特性も大きく関わっている。

 第一に、雇用統計が(少なくとも見かけ上は)安定している点だ。

 前述の通り、若年層失業率は約20%と深刻だが、農村戸籍を持つ「農民工」が都市から農村に戻ることで失業者数が統計に反映されにくい。農村部が「緩衝地帯」として機能し、大規模失業が社会不安に直結しにくい。

 第二に、人民が他国より忍耐を強いられることに慣れており、社会統制が機能している点だ。

 民主主義国家であれば経済停滞は政権交代を引き起こすが、中国では党の支配が揺らぐことは少なく、国民も「経済成長より社会安定」を優先する傾向が強い。国内の情報統制や治安維持システムは強固であり、仮に成長がさらに鈍化しても体制崩壊には直結しない強みがある。

 第三に、国際環境が(逆説的に)中国金融の安定を支えている点だ。

 米中対立の激化によって中国国内から外資の引き上げが進む一方で、資金を国外に出すことを規制しており、国内に投資先のない資金が滞留し続けている。皮肉なことに、この滞留資金が何度も取り付け騒ぎを起こしている中国金融を支えている。

 また、中国を中心とする国際サプライチェーンに依存するEU諸国は、中国が崩壊することを望んでおらず、アメリカが進める強硬な中国包囲網には消極的だ。

 こうした政治的・社会的・国際的要因は、中国経済の「崩壊を免れる力」を補強している。だが同時に、それは市場原理による健全化のチャンスを奪い、停滞を固定化する要因にもなりうる。体制の強さそのものが「改革の先送り」を可能にしているからだ。

地方の「隠れ債務」という
時限爆弾の存在

 ただし、国家の管理能力にも限界はある。脆弱さが最も危惧されるのが、冒頭で述べた地方政府債務である。

 2023年末時点で、融資平台(LGFV)による「隠れ債務」は14.3兆元に達したと伝えられ、実際はさらに大きいという説も根強い。政府は2028年までにこれを2.3兆元まで削減する計画を打ち出しているが、現実には容易ではない。
https://www.business-standard.com/world-news/key-points-of-china-s-1-4-trillion-debt-package-to-ease-economic-strain-124111100220_1.html

 IMFの推計では、2024年の中国全体の非金融公的債務はGDP比312%に達し、そのうち地方政府の負担は六割を超える。地方政府と融資平台の拡張債務はGDP比124%に上り、財政余地を大きく圧迫している。
https://www.omfif.org/2025/03/china-has-just-raised-its-debt-ceiling/

 こうしたリスクを背景に、格付け会社フィッチは2025年4月、中国の信用格付けをA+からAに引き下げた。理由は「地方債務膨張と債務透明性の欠如」であり、国際金融市場からの信頼は揺らぎ始めている。