そこで大切なのが、「湧いた怒りを頭に上げない」こと。怒りをすぐに放り捨てることが、禅における対処法です。アンガーマネジメントでは、怒りのピークは6秒間といわれています。これは科学的な裏付けが必ずしもあるわけではないものの、「間を置く」が怒りを鎮めるカギであることは間違いありません。
怒りが込み上げたとき、まずは深く呼吸をしましょう。おへその下あたりに「丹田」と呼ばれる部分があります。その丹田を意識し、そこから吐き出すつもりで、息をゆっくりと吐き切るのです。
すると、自然と身体に空気が入っていきます。その息を丹田まで落とし込むように、ゆっくりと吸い込む。これが、坐禅の際に用いられる「丹田呼吸法」です。この呼吸を数回繰り返せば、怒りの感情は確実に鎮まります。
さらに、この方法をより効果的にするための“呪文”があります。これは、私が尊敬する故板橋興宗禅師(元曹洞宗大本山總持寺貫首)から学んだものです。「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」と心の中で3回唱えます。
この「ありがとさん」に固執する必要は、もちろんありません。言葉はなんでもいいのです。「落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて」「焦るな、焦るな、焦るな」など、自分にしっくりくるフレーズを見つけて、心の中で繰り返してみましょう。
ポイントは、自分に言い聞かせるような感覚を持つことです。すると、湧き上がる怒りや焦り、不安といった感情が自然と和らぎ、冷静さを取り戻せるはずです。
こちらが相手の言葉に反応せず、泰然自若としていれば、それだけで状況は変わります。怒りをぶつけようとしていた相手も、拍子抜けしてしまい、引き下がるしかなくなるのです。
怒りに振りまわされるのではなく、怒りと上手に向き合う。禅の教えを活かせば、それができるようになります。
イヤな相手の言葉を思い出して
後になって怒りが湧いてしまう
極める先に道があるのではない。日常の暮らしそのものが道である。修行の末に悟りに至るのではない。平常の心こそ悟りなのだ。それに気づくことが何より大切である。
自宅に戻ってから、昼間に誰かから言われた言葉をふと思い出し、無性に腹が立ってきたり、仕事相手の振る舞いが頭をよぎり、許せない気持ちが再び込み上げてきたりする、こんな経験はありませんか?