繰り返される組織改正で
戸惑う社員に明確なメッセージを

 オペレーション・メンテナンス業務の変革・生産性向上も必要だ。「モビリティ戦略」では自動運転技術の導入、ワンマン運転の拡大など省力化、駅業務、メンテナンス、工事の機械化、DXの推進、AI活用などを掲げる。

 また、都市圏でも日中時間帯のメンテナンス・工事を拡大する方針を示している。コロナ禍で鉄道各社が夜間作業の効率性向上を目的に終電繰り上げを行ったが、今後は日中のサービスのあり方も変わっていく可能性がある。

 JR東日本は2022年以降、現場組織の再編を進めており、従来の運転、車掌、駅という職場の区分を「統括センター」に統合した。これにより運転士資格を持つ社員でも車掌業務や駅業務につくようになり、駅員→車掌→運転士という従来のキャリアパスがなくなった。さらに2026年度には現業・企画部門の垣根も取り払う予定だ。

 スペシャリストからゼネラリストへ、悪い言い方をすれば「便利屋になれ」という話だが、技術の進歩に伴い働き方が変わるのが鉄道の歴史であり、それ自体は間違いだとは思わない。だが、業務範囲の拡大で専門知識や責任感まで分散してしまっては本末転倒だ。

 そこで「モビリティ戦略」は「各専門の基本知識に加え、異常時対応やダイヤ作成等のモビリティ特有のオペレーションスキルや固有設備(車両の台車、特殊分岐器等)の知識等を有した業務の核となるプロフェッショナル人材の育成」を掲げているが、繰り返される組織改正に戸惑う社員に明確なメッセージを届けなければならない。

JR東日本が掲げる
20年後のモビリティとは

 続いてモビリティの将来像だ。2018年に策定した前経営ビジョン「変革2027」を振り返ると、ホームドアや3次元レーザーレーダー式踏切障害物検知装置の導入拡大、中央線へのグリーン車導入、羽田空港アクセス線の着工、新幹線eチケットサービス導入などが実現した。

 中期的な構想としては、時速360キロ運転に対応した次世代新幹線、燃料電池車両、ドライバレス運転の開発などが挙げられていたが、現実的な範囲にとどまっていた印象だ。一方、今回の「モビリティ戦略」では、いきなり「2045年 未来のモビリティ」と題したイメージ図が登場する。

「2045年 未来のモビリティ」と題したイメージ図「PRIDE&INTEGRITY」パンフレットより 拡大画像表示

 開放的な駅にロボットやドローン、謎の「次世代モビリティ」など、いかにもな「未来図」だが、この通りの形を実現したいという意図ではない。真意を聞くと「今あるものを正確にしっかりやるのが鉄道人の習性なので、なかなか新しいものに辿り着かない。こういう絵を見ながらディスカッションしていくことが大事」とのこと。

 個別のイメージに惑わされずによく読むと「自宅から目的地までシームレスに移動」「様々な輸送モードが相互に連携するモビリティサービス」「駅は『ナカ』『ソト』の概念がなくなり、人々が交流する拠点となる」とあり、問題意識自体は突飛なものではない。20年後にどのような形で実現するのか、これがゴールではなくスタートとの立場だ。