
東証スタンダード上場企業クシムで、旧経営陣による資産剥奪の実態が明らかになった。旧経営陣は経営権を失う直前、暗号資産交換所「Zaif」などの中核事業を代物弁済で譲渡し、12億円超の現金を流出させるスキームを実行。その背景には、価値の乏しい暗号資産を駆使した「錬金術」が存在した。特集『錬金術 暗号資産バブルの真実』の#2で内部資料や調査報告書に基づき、上場企業を食い尽くした手口を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
クシム新社長が見た「空箱」の衝撃
旧経営陣の周到な“焦土化作戦”か
2025年5月1日。臨時株主総会を経てクシムの新社長に就任した田原弘貴氏が、東京・南青山のオフィスに足を踏み入れたとき、そこに広がっていたのは衝撃的な光景だった。
積み上げられた段ボールが占拠するがらんとした事務所。主要な事業子会社は全て奪われ、従業員はゼロ。会計データや契約書、メールサーバーに至るまで、会社の重要情報はごっそり持ち去られていた。
わずか1週間余りで12億円以上の現金が不透明な貸し付けで流出し、文字通り「空箱」と化した上場企業。その後の調査で明らかになったのは、旧経営陣が仕掛けた周到な“焦土化作戦”だった。
暗号資産交換所「Zaif(ザイフ)」を傘下に持つ中核子会社群は、不可解な取引によって外部勢力の手に渡り、会社の事業基盤は失われた。新経営陣の追及を妨害し会社の過去を闇に葬るかのように、経営の根幹を成す情報へのアクセスも遮断されていた。
クシムが空箱と化した内実を検証すると、暗号資産価格をつり上げ利益操作をするという、これまでにない「錬金術」の手口が浮かび上がる。関係者の証言や内部資料をひもとき、暗号資産錬金術の実態を次ページで明らかにする。