錬金術 暗号資産バブルの真実#4Photo:PIXTA

暗号資産を有価証券と同等の投資対象に位置付ける議論が進行しているが、詐欺的な暗号資産による被害を防ぐ手立ては未整備だ。詐欺を防ぐ“番人”となるべき取引所が詐欺集団の手中に置かれるなどの状況があるからだ。自主規制団体は「けん制機能」を誇示するが、その数字にはまやかしがある。こうした状況にもかかわらず政府が暗号資産の見直しを進める背景には、大手取引所による政界へのロビー活動が垣間見える。特集『錬金術 暗号資産バブルの真実』の#4で、その実態を暴く。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

109億円集めた「コムサ」は1円に…
価値なき暗号資産を生む錬金術の正体

 暗号資産をカネに替える「錬金術」の代表的な手法が、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)である。

 株式会社などの発行体が事業計画を掲げ、暗号資産交換業者である取引所に自社発行暗号資産を上場し、投資家から現金などを得るものだ。株式市場のIPO(新規株式公開)を模した取引だが、価格はICO直後に下落し、当初掲げていた事業はうやむやとなる詐欺的なカネ集めが相次いだ。

 その最たるものが、国内最大級のICOとなった、COMSA(コムサ)という暗号資産である。暗号資産取引所「Zaif(ザイフ)」の運営元だったテックビューロが2017年に実施したもので、ICO支援サービス「コムサ」システム開発に充てるとして、109億円を集めたとされる。

 コムサは17年12月に初値2000円で取引が開始されたが、同日中に90円まで下落。18年9月には10円を割り、現在は1円台で推移している。

 テックビューロは18年にハッキング被害に遭い67億円のビットコインが流出したとし、ザイフ事業をフィスコに売却した。その後、ザイフは同社グループの金融スキームに利用されていく(本特集#2『東証スタンダード上場クシムを食い尽くした「暗号資産錬金術」の恐怖、主要事業と現金12億円が消え会社が空箱に…価格を人為的につり上げる粉飾疑惑の全手口』参照)。ハッキング事件と事業売却のどさくさに見舞われ、コムサ事業は来年にもサービス停止となる見通しだ。

 ICOは「IEO」(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)に更改されているが、その本質は変わらない。現在、上場維持している銘柄も、ICO直後から暴落しているものが大半だ。金や通貨などにひも付く暗号資産の場合はそうではないが、なぜ暗号資産の形態を取らなければならないのか、合理的な説明はない。

 日本銀行OBで京都大学公共政策大学院の岩下直行教授は、IEOが事実上“全滅”している理由について「この手のトークン(暗号資産)というのは価値のないものだから」とダイヤモンド編集部のインタビューで指摘している(本特集#3『日銀OBの京大教授が暗号資産バブルに公開警鐘!金融庁「暗号資産を金融商品に」に異議あり』参照)。

 事実、暗号資産保有者は発行体に対して議決権などの権利がない。IEOは「資金調達」と表現されているが、発行体は売り上げとして会計処理しており、投資家から受け取った現金はリスクから解放されたものと認識している。集めたカネをどう使ったか、暗号資産保有者に開示する義務はない。

 IEOで上場される暗号資産とビットコインの違いは、特定の発行体があることだ。圧倒的な情報格差が発行体と投資家の間にある中で、詐欺的な手法を用いれば、巨額のカネもうけができてしまう構造がある。

 詐欺的なIEO案件は、暗号資産取引所が適切な倫理観とガバナンス体制を持っていれば防ぐことができる。だが、話はそう単純ではない。取引所自体が経営危機から売買され、一部は詐欺集団の手に渡る驚愕の事実もあるからだ。

 次ページでそれを明らかにする。