
ビットコイン財務戦略による株価100倍の高騰劇から一転、下落の一途をたどるメタプラネット。その裏で巨額の利益を上げたのが英領ケイマン諸島の投資ファンド、エボファンドだ。2011年に日本に本格参入した同ファンドの軌跡をたどると、不振企業から超有利発行を引き出す「錬金術師」の巧妙な手口が浮かび上がる。特集『錬金術 暗号資産バブルの真実』の#5で、その正体を明らかにする。(フリーライター 村上 力、ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
ビットコイン財務戦略の光と影
メタプラネット株価下落の裏側
上場企業がビットコインを大量に取得するビットコイン財務戦略。その代表銘柄として知られるメタプラネットの株価が下落している。今年6月に株価1900円、時価総額1兆円超えを達成したものの、その後は下落の一途で今月には400円を割り込む局面もあった。
株価下落の主な要因はEVO FUND(エボファンド)による株式売却である。エボファンドは高値圏で空売りした上で、MSワラント(行使価額修正条項付き新株予約権)で得た大量の株式を売却して株価下落を引き起こしていた。本特集#1(『【株価100倍】メタプラネット「ビットコインを大量保有する会社」に投資家熱狂、裏でトランプ一家とハゲタカファンドが巨額利益を得る「錬金術」の正体』)で分析した通り、一連の取引により、エボファンドはわずか3カ月の間に実質元手ゼロで100億円近い利益を上げたと推定される。
そもそもメタプラネット株の高騰は、虚構のビットコイン財務戦略を誤解した投資家により引き起こされたバブル現象である。それに乗じてエボファンドが荒稼ぎしたのは、大株主であり社長のサイモン・ゲロヴィッチ氏から大量の株式を借株すると同時に、メタプラネットから有利な条件でMSワラントを発行させることができたからだ。
エボファンドはメタプラネットから、今年1月と6月の増資で、発行済み株式総数の2倍以上の7億6500万株に相当するMSワラントの割り当てを受けている。仮に全て行使されれば、1株当たりの議決権の希薄化率は200%超となり、一般的に既存株主の利益を害する恐れのある25%を大幅に上回る大規模希薄化といえる。
メタプラネットは2023年にもエボファンドらを割当先に希薄化率200%超のMSワラントを発行している。通常、発行体は既存株主の利益を損なう大規模希薄化を回避するが、メタプラネットは常習的に大規模ファイナンスを繰り返しているのだ。
なぜメタプラネットはエボファンドの言いなりとなっているのか。その背景として、同社が一時、エボファンドの支配下に置かれていたことが挙げられる。エボファンドは22年に、ゲロヴィッチ氏の個人会社から議決権比率70%に相当する株式を取得。メタプラネットがWeb3などの暗号資産ビジネスに参入したのはそれからである。
米国に拠点を置くエボファンドは、11年ごろに日本の先物取引業者であるエース交易の経営権を取得し日本の新興市場に本格参入。これまで数多くの低位株のファイナンスを引き受けてきた。それらの案件を見ると、不振企業を錬金術の舞台装置に変える、「錬金術師」の手口が浮き彫りになる。
次ページでその手口を明らかにし、エボファンドの正体を解明する。