本書の最大の美点
アクティブ・ラーナーは「自分が学んだことは周りの人と分かち合わなければならない」という考えを持っていた。私が本書を書いているのも、自分の考えを読者と分かち合いたいという思いがあるからだ。
本書は冒頭で「最も喫緊の課題は、人に学び方を教えることである」というピーター・ドラッカーの言葉を掲げている。この喫緊の課題に対する著者の並々ならぬ思い入れが本書に通底している。実務において学習を実践してきた著者が腹の底から信じていることが書かれている。ここに本書の最大の美点がある。
著者は、経営者はもちろん、スポーツ選手、政治家など、さまざまな分野のリーダーが実践した学習を分析し、それらの共通点を探求している。学習にまつわるエピソードを深掘りするという方法が採用されている。このアプローチにより、読者は現実の環境や文脈、リーダーとしての立場に即した知識を得ることができる。
言うまでもなく、本書の多くのページは著者自身の経験とそこから得た学びの事例に割かれている。僕の印象に残った著者のエピソードを紹介しよう。
伝説のCEOの学習戦略とは?
ペプシコの飲料部門でマーケティング責任者を務めていた著者は、最高執行責任者に抜擢される。著者にはそれまでオペレーションの経験がまったくなかったため、最高執行責任者の仕事はリスクの高い挑戦だった。
マーケティング責任者だった期間は、工場や倉庫のようなオペレーションの現場を訪問することはほとんどなかった。訪問したとして、ツアーガイドやマネージャーの説明を礼儀正しく聞き、さも相手の話をよく理解しているようにうなずくだけだった。
成果を出すためにはオペレーション業務における知識のギャップを埋めなければならない。
まずギャップが何かを明らかにし次に専門家を見つけできるだけ多く質問をする――これが著者の学習戦略だった。専門家といっても、その分野の第一人者というわけではない。
「聞く」相手への思い込み
「ある分野について詳しい人」は身の回りにたくさんいる。著者が話をしたのは、日々製品を作り、顧客と接している従業員だ。朝の5時に起きて頻繁に事業所を訪れ、出発前のルート営業の担当者に質問をして、彼らの答えを注意深く聞く。彼らは自分が知らないことを知っていて、たいていは喜んで質問に答えてくれる。
学習にとって重要な情報は、会社の幹部よりも現場の最前線にいる従業員たちが持っている。彼らは幹部が知らないことを知っている。重大な問題点を指摘し、本社の人間が考えた「最新かつ最高のアイデア」が現場でうまくいかない理由を教えてくれる。どんな会社にもこの意味での専門家がたくさんいる。どのような疑問でも、答えはたいてい社内の誰かが知っている。