「ちゃんとしなさい!」という言葉のトゲ

「なんで、『ちゃんとしていない自分はダメ』って感じるんだと思いますか?」

 真面目なケイコさん、う~んとしばらく考えたあと、

「そういえば、子どもの頃よく母に『ちゃんとしなさい!あなたはホントにちゃんとしてないんだから』と怒られることが多かったから、かなぁ。学校から帰って横になっていると『だらしない。なんでちゃんとしないの!』と。とにかく母の機嫌が悪くなることが怖くて……。

 なんか楽したらダメ、もっとちゃんとしなくちゃ怒られるという気持ちが私の中にあるような。考えてみたら、いまだに母の顔色が気になっている気がします。

 おかしいですよね。もう10年以上も前に母は亡くなっているのに……」と。

 ケイコさんが「ちゃんとしないと」と自分を責めていたのは、いまはこの世にいないお母さんからの言葉のトゲが原因だったのです。

「ケイコさん、フルタイムでお仕事しているのだから、家のことができない日があっても当たり前だと思う。できる範囲でがんばって、少しくらい手を抜いても大丈夫。それに、SNSなんてみんな切り取った部分、いいトコだけ上げているんだから。キレイに見える部屋の写っていないところは汚く散らかっているかもしれないし、なんでもないときは写真上げる意味もないわけだから、楽しい投稿ばかり目につくのは普通のことなんじゃないかな。

『ちゃんとしなさい!』と怒っていたお母さんはもういないんですよね。だいたいいまはケイコさんが、お母さんなんだし」

 うなずきながら聞いていたケイコさんの表情が少しあかるくなりました。

 ケイコさんに刺さっていたのは、「ちゃんとしなさい!」という言葉のトゲでした。

 この言葉が刺さっていることで、いろいろなことにおいて「ちゃんとちゃんと」と常に心が追い立てられたようになっていたため、必要以上にがんばりすぎて疲れ切っていたのです。

 彼女には、「もっとちゃんとしないと」という言葉が思い浮かんできたら、「いやいや、『ちゃんと』ってなによ? お母さんは私!」と思うようにしてみて欲しいと伝えました。

 “言葉”の大切さを知って意識するようになることで、過去に心に刺さった親や大人からの“言葉”があることにも気づけるのです。気づけると、その“言葉”のトゲを抜く(呪いを解く)ことができるようになります。さらには“言葉”を意識して生きることで、いまの目の前の人間関係だけでなく、もうこの世にはいない人との人間関係も好転させていくことができるようになっていくのです。