SDV(ソフトウエア定義車両)への対応についても、「顧客にとってちょうどいい機能」を提供するSDVライトの考え方を掲げ、スズキならではの方向性を追求していく。また、エタノール燃料に対応するFFV(フレックス燃料車)、CBG(バイオガス燃料)車など、世界各地のエネルギー事情に合わせた多様なパワートレインの開発も継続していく方針だ。
俊宏社長は「スズキの企業特性は、生活に密着したインフラモビリティ企業」とし、「従来のスズキの行動理念の『3現主義(現場・現物・現実)』に、原理・原則を加えて新たに『3現・2原』とする」ことを宣言。地球に寄り添う技術哲学でエネルギー極小化、ヒトに寄り添う技術で本質価値極大化を実現し、その両輪を「Right x Light Mobile Tech(ライトライト モビルテック)」と位置付け、顧客に寄り添う価値を提供していくこととした。
さらに、スズキは、この技術戦略説明会を開催した1週間後の9月16日に、スズキ初となるBEV「eビターラ」の国内販売を発表した。
eビターラはインドで生産し、世界各地で展開するスズキの世界戦略BEVだ。トヨタ自動車・ダイハツ工業との共同開発車で、デンソー・アイシンなどトヨタ系主要部品メーカーが開発したイーアクスルを搭載する一方、バッテリーは中国BYD子会社から調達する。いわば、インドにおける「トヨタグループ結集」の成果としてのスズキのBEV第1弾であり、OEMでトヨタに提供する兄弟車「アーバンクルーザー」も欧州に導入される予定だ。
スズキ初のBEVは、得意の軽自動車ではなくBセグメントのSUVタイプだった。だが、このeビターラには、技術戦略説明会で発表されたSDVライトにのっとった高性能電装品の考え方を適用し、BセグメントSUVを求めるユーザーにとって“ちょうどいい”水準の機能を搭載している。
eビターラの価格は安価モデルで399万円だが、補助金を入れると312万円となる。筆者はこの発売に先立って試乗会で試乗してきたが、コンパクトSUVのBEVとして運転も快適だった。発表後のSNS上では、「コストパフォーマンスがいい」など高い評価も流れているようだが、BEVが逆風下にある日本市場でどれだけ受け入れられるか、注目される。
俊宏体制の深化
30年代での生き残りへ
さて、俊宏社長は、修氏亡き後の今年2月に、25~30年度までの「スズキ新中期経営計画」を発表している。“修体制”から完全移行し、30年代をスズキが生き抜く覚悟を示したものだった。
この新中計で、コーポレートスローガンを新たに「By Your Side」と定め、顧客に寄り添う姿勢を前面に押し出した。また、30年度に売上高8兆円、営業利益8000億円、営業利益率10%、ROE(自己資本利益率)13%とする業績目標も掲げ、設備投資・研究開発費として合わせて期間中に4兆円を投資する方針も示した。「30年代前半には営業利益率10%以上、ROE15%以上を目指す」と、俊宏社長はさらなる拡大の意欲も見せている。